「うん、もういい。勝手に想像して勝手に分かった気になって……わたしたち何やってたんだろう」
「本当にね」
「どうしようもなくて笑える」
肩をすくめると、こらえられなかったのかふたりも頬を緩めた。
一拍置いて亜里沙が息を吸う。
「でもさ。何か、いますっきりしてる」
「うん……本心を隠してなあなあに済ませるのが大人になるってことだと思ってたけど、それも言い訳だったのかもしれない」
「悪くないね、本音で喚くのも」
分かり合えないことや折り合えないこと、お互いに許せないことはある。
それを分かってて衝突するのは、疲れるし傷つく。
だから、いつの間にか期待しなくなっていた。
「杏もさ、あたしにムカつかないの? こんな適当な……てか、失礼な気持ちで友だち面してたのに」
「うん……それはわたしも同じだから。うっとうしがられるのが怖くて、見て見ぬふり続けてたんだもん。都合のいい人間に自分から成り下がったんだよ」
いままで知らなかった、ふたりの距離感。
ただの嫌味にしか思えなかった杏の言動の数々は、もしかしたら関係性を確かめる意味もあったのかもしれないと初めて思い及んだ。
たぶんわたしたちも完全に元通りとはいかないし、それぞれが再び、というか改めてわたしを受け入れてくれるかは分からない。
そもそも、もう仲良しごっこなんてする気もない。
だけど、それでいいような気がしていた。
自分の進む先はほかでもない自分が決める。
ぶつかっても迷っても間違えても、自分で選んでいく。
そしたらきっと、後悔しないから。
────教室に入る寸前、握り締めていたスマホをポケットに入れた。
もうひとつ、向き合わないといけないことがある。
「あ、やっと来た。Otoちゃーん」
「虚言癖の捏造女!」
わたしを認めるなり真穂と紗雪が嬉しそうな声を上げる。
一番後ろの席に悠々と腰かける一花のそばに、3人の取り巻きが侍っていた。
華やかで毒々しい空気をまとう彼女たちと、大人しく成り行きを見守るクラスメートたちの視線が突き刺さる。
「やっぱあんたがジョーカーだったの?」
「……え?」
「今日見たらアカウント消えてたからさ。何かタイムリーじゃん、いくら何でも」
初耳だ。そんなこと言われても。
誤解が解けたことで、深く反省したらしい辻くんはアカウントを削除したようだ。
確かにもう必要ないだろう。
「ねぇ、疑われたから消したんじゃないのー?」
「いや……そんなことなら、最初から暴露なんて始めないよ。わたしはジョーカーじゃない」
なかなかしつこく疑ってくる彼女たちにうんざりしながらも、きっぱりと否定した。
ちがうものはちがうんだから仕方ないのに、気まぐれな好奇心って厄介だ。
いまは徹底的にわたしをいじることに夢中らしい。
退屈な日常を動かす刺激をOtoが与え、ジョーカーが助長してしまった。
「じゃあ、あんたって何なの? Otoでもいられなくなるでしょ」
腕を組んだまま一花が机の上に身を乗り出す。
「わたし、は……」


