不安定なわたしたちの繋がりは、ほんの些細な弾みで容易(たやす)く壊れた。
 冷徹な言葉に杏はうつむく。
 彼女は亜里沙の吐露(とろ)をどう受け止めたんだろう。
 そんなことを考えていると「……そうかな」と口をついた。

「わたしは、いまのふたりの話聞いて……何か安心した」

「は? 安心?」

 不可解そうに亜里沙が眉を寄せる。

「怖いと思うのは、分からないからなんだよ。相手の気持ちが。相手の反応が。だから本音を隠して、当たり障りなく誤魔化そうとするの。本当のこと言って受け入れてもらえなかったら、傷つくのは自分だから」

 弱くて脆いわたしたちは、いつだって自分を守るので精一杯。
 だから、他人の痛みに鈍感になる。

 拒絶される絶望を潜在的に知っているから、無意識のうちに防衛本能が働く。
 不安を笑顔で上塗りするのも、本音を建前で覆い隠すのも、綺麗ごとに反吐(へど)が出るのも、ぜんぶ防衛本能。
 根拠のない優しさだとか、無償の絆や愛を信じられないのだって防衛本能。
 自分だけが可哀想な負け犬になりたくないから、傷つけられる前に傷つけようとする。
 それで勝ったつもりになる。

(……わたしはそうだった)

 だから心の中で他人を見下して悪態をついてきた。
 醜く()えた劣等感を飼い慣らすには、それ以外にどうすればいいのか分からなかったんだ。
 いつもいつもこらえてきた。

 たとえ動いてみたって、いい方向へ向かうとは限らない。
 それには勇気もエネルギーもいるし、そんなリスクを犯すくらいなら、多少無理をしてでも慣れた退屈な日々に甘んじていた方が安牌(あんぱい)だと、現状に妥協している。
 食傷(しょくしょう)歓迎だ。

「でも、こうなって分かったことがある。ずっと半端で曖昧な自分に流されてきたけど……だから、ぜんぶ失ったんだって」

 すべてが露呈(ろてい)して何も残らなかったのは、いままでわたしのしてきた選択の結果でしかない。

 自分から手を伸ばすことはせず、ただ相手が差し伸べてくれることだけを待っていた。
 自分は信じないくせに信じてもらおうとばかり────心を閉ざしたまま何事にもずっと受け身で、いつか現れる誰かを待っていた。
 自分が歩み寄ろうともしないのに、いったい誰が受け入れてくれる? 必要としてくれる?

 わたしに価値がないんじゃなく、わたしがただ行動してこなかっただけだった。
 何もしないで変わることなんてできないのに。

「ふたりといたのは、確かに自分のためだった。虚しくてもひとりになるよりマシだって……。けど、そのためにはずっと我慢が必要だったから、必死で自分に言い聞かせてたんだ。わたしは損得勘定(そんとくかんじょう)でふたりと一緒にいるだけだって。別に心から必要としてるわけじゃないって。友だちだなんて思ってないって」

 自分が蚊帳(かや)の外だと自覚するたび、いつ切り捨てられるか不安でたまらなくなった。
 だからそれを誤魔化すため、そうなったときに傷つかないための予防線を張り続けた。
 見下すことで優位に立てば、惨めにならないで済むと勘違いしていたんだ。