「わたしは……わたしの入る余地なんかないってずっと感じてた。不安だったのは杏だけじゃない。係とかペアとか決めるときは、毎回相談もなくふたりでなるからいっつも余りもので! 本当に惨めだった」

 そして、必死だった。
 自分が傷つくだけだから、認めたくなかった感情たち。
 口にした途端、身体の内側が熱くなった。
 それでも、心のかさぶたを剥がしていく。

「だから……亜里沙にもあんなこと言っちゃったんだと思う。ごめん」

 うつむくように頭を下げ、心から告げた。
 許されなくても自己満足でも、この言葉しか持ち合わせていない。

 口をつぐんだままじっとこちらを見つめていた亜里沙は、硬い表情で目を落とす。
 直接答えることなく、ややあって静かに語り出した。

「あたしは……正直、知らなかった。ふたりがそこまで熾烈(しれつ)に睨み合ってたなんて。杏を“助けた”なんて大げさなつもりもなかったし。最低だと思われるかもしれないけど、あたしはふたりとちがって妥協してここにいた。本当は、一花たちみたいに目立つグループに入りたかった。1軍に。乙葉みたいに」

 その野心は確かに透けていた。
 直接媚びを売られたわたしだけじゃなく、そばで縋っていた杏にも。

「何もしなくてもふたりが勝手に寄ってきてくれるから、あたし自身は不安はなかった。けど、不満だった。あんたたちといても我慢と妥協の毎日が続くだけだから」

 別に敵対的な声色でも非難的な言い方でもない。
 わたしや杏の感情を刺激しようというより、ただ単に本心を打ち明けたに過ぎないのだろう。

 いつか小夏が口にしていた、目立ちたがりだとか仕切りたがりだとかいう亜里沙への評価は的を射ていた。
 彼女の野心は実際、そういう心理から来るものだったのだと思う。
 そのためには絶対的な一花の存在が邪魔で、だけど覆せるほどの器量もないから仕方なく甘んじていたわけだ。
 それが、亜里沙の言う“我慢”と“妥協”。

「だから、乙葉が一花に声かけられたときはマジでムカついた。何であたしじゃないの? 何で、個性も華やかさもない乙葉なの? って。……でも、乙葉と仲良くしてたことをきっかけに1軍と近づければと思って」

「やっぱり。急に愛想よくなったのはそういうことだったんだ」

「そうよ、媚び売ってたの。結局、意味なかったけどね」

 亜里沙の顔にわざとらしい笑顔はもう浮かんでいない。
 耳触りのいい言葉も猫撫で声もない。
 けれど、いまの彼女との方がよっぽどまともに話せている感じがする。
 ややあって彼女は温度を低めたまま口を開いた。

「でも、これではっきりしたよね。うちらって本当に空っぽ。あたしもあんたも杏も、みんな自分のためだけに一緒にいただけ。ただの寄せ集め」