わたしに対して平謝りに謝った辻くんに、許そうか許すまいか考えるまでもなく「もういいよ」と口をついていた。

 亜里沙の彼である吉木くんとの写真を撮られたり、わたしを(かた)るダイレクトメッセージに振り回されたりしたことに、怒りを覚えたのはそうかもしれない。
 だけど、それだけじゃない。
 わたしがひとりになったのは、決して辻くんのせいじゃないから。

 方向のちがう彼と別れ、流れで今日も速見くんと帰路についた。
 待たないけれど置いていくこともしない足を、追いつかないけれど緩めもしない足で追う。
 公園のある脇道の手前でふいに立ち止まり、彼が振り向いた。

「意外だった」

 言葉の割に淡白な表情。
 たぶん、仮面をつけないとその移り変わりがあっさりしているんだろう。

「何が?」

「庇ってくれたこと。今朝もだし、拓海の前でも」

「庇ったっていうか、ただ思ったこと言っただけ」

 何だかデジャヴだ。
 さっきも同じようなことを口にした。

「でも、嬉しかった」

「……別に、好きに受け取ってくれたらいいよ」

 これも何だか聞き覚えがある。
 お礼なんて言われたらたまらないので、この話題は切り上げることにした。

「それより、いつから聞いてたの?」

 彼が屋上に現れたタイミングは完璧だった。
 あとをつけて潜んでいたにちがいない。

「え? ああ……最初から。しょうがないじゃん、そりゃ気になるよ。拓海がジョーカーだって分かってたら」

「まだ何も言ってないけど。言い訳早くない?」

「盗み聞きするとか悪趣味、って言いそうな気がしたから」

「盗み聞きするとか悪趣味だね」

 速見くんは「ほら」と肩をすくめる。
 何だかこの状況ぜんぶがおかしくて、思わずこっそり笑った。

「天沢は……どうするの」

 控えめに尋ねられる。
 何のことを言っているのかは明白だった。
 心の真ん中に、岩みたいに居座ってあらゆる感情をつっかえさせているわだかまりのこと。
 わたしはわけもなく足元を眺めた。

「……ずっと考えてた。けど、やっぱり何も考えないで思ってたこと言ってみようかな」

「うん、天沢はそれがいいと思う」

 適当そうな言葉なのに響きは重厚で、そのちぐはぐさに笑ってしまう。

「わたしは、って何?」

「今度はきみの番だからさ」

 避け続けるのも逃げ続けるのも、たぶん自分を苦しめるだけ。
 速見くんの言う通り、わたしも腹を括ろう。