あの暴露劇は、言わば“革命”だったんだ。
唯一無二のキングを糾弾した辻くんは、果たして悪役なのか英雄なのか。
紙一重だ。
眉を寄せて見据えていると、やがて彼が薄く笑う。
「そうだよ、紛れもない裏切り。乙葉もあいつに裏切られたんだよな」
ようやく理解した。
彼はわたしのことを、速見くんに欺かれて傷つけられた被害者だと思って気にかけていたんだ。
いや、厳密にはそれじゃ足りない。
わたしを陥れたのが彼の仕業だったこと、そしていますべてを打ち明けたことを思うと、わたしを同志にでも引き込みたいんだろう。
思ったより狡猾だった。
自分で色々と仕掛けておきながら、わたしにも速見くんにも味方みたいな顔で優しいふりをして。
ぜんぶ、自分が疑われないため。悪者にならないため。
悪いけど、わたしはそこまでばかじゃない。
「ちがう。速見くんはそんなつもりでニセモノの自分を演じてきたわけじゃない。辻くんは誤解してる」
────僕はね、ただ臆病でわがままなだけ。だから別に、悪気とか打算とかで嘘ついて騙してたってつもりはない。
見て、聞いて、心に直接触れたような感覚があった。
勝手な幻想でも綺麗ごとでもない速見くんの本音。
母親の遺言のためでもあり、自分の承認欲求のためでもあったのだろうけれど、少なくともそこに嘘はない。
単純なわたしたちを嘲笑おうなんて、彼は考えていない。
いまなら分かる。
だけど、辻くんはせせら笑った。
「どこが? 目覚ませよ。そう思わされてるだけだって、あいつに」
なんて危うい正義感なんだろう。
思わず口をつぐみながらも、何だか既視感を覚える。
(ああ……SNSの炎上だ)
無関係なはずの外野が騒いで、自分のものさしで測った“正しさ”を押しつけ合うあれ。
そこから少しでもずれたら容赦なく袋叩きにして全否定するあれ。
度を越した独りよがり。
今回の件に関しては、辻くんはまったくの部外者ではないし、裏切られたと感じるのも分からないでもない。
ただ、その怒りを表す方法を間違えている。
こんなふうにクラスを巻き込んで、おおごとにして速見くんをさらし者にする必要なんかなかった。
ただ思いきってぶつかっていけばよかったのに。
お世辞も建前も取っ払って、本音でぶつかり合えば。
(……なんて、人のことなら分かるのに)
わたしも誰も彼も弱いから、傷つくことから逃げて曖昧に済まそうとする。
恐れているのは孤独。自分の正しさが否定されること。自分を受け入れてもらえないこと。


