「そうだね」
ちょっと曖昧なもの言いなのは、告白を断ったという事実を俺に伏せているからだろう。
どうやら玉砕はしてもいままで通りの友だち関係が続いているらしい。
ということは、俺の憶測は間違っていたことになる。
振った振られたで気まずくならないよう接することができるほど千紘は器用で、別に恋愛がうっとうしいと感じているわけでもなさそうだ。
じゃあ、乙葉とはいったい何があったんだろう?
その疑問が膨らむと同時に、千紘に対する怒りを覚えた。
知らず知らずのうちに募っていた不信感を自覚する。
あの子は千紘が手紙を読みもせず捨てたことなど知るよしもなく、向けられる笑顔を本物の彼の優しさだと信じているだろう。
千紘は騙しているにほかならない。
彼女だけでなく、彼を慕う周りの全員をだ。
俺もあの場面を見ていなければ、いまもずっと騙されていた。
完全無欠な善人を装いながら、腹の中では平気で他人を見下し傷つける千紘。
みんなは欺かれている被害者だ。
はっとした。
もしかすると、乙葉は直接傷つけられたんじゃないだろうか。
あるいは手紙を捨てたところを目撃した俺のように、あいつの本性を目の当たりにしたんじゃないだろうか。
ますます許せなくなってきた。
そもそも俺が気を遣って火消しをする必要なんかない。
むしろ、表沙汰になればいいんだ。
千紘が本当はどんなやつか、ちゃんと知らしめた方がいい。
みんなを守るために、みんなが傷つかなくていいように、千紘の化けの皮を剥がそう。
俺が、キングを降ろすジョーカーになってやる。
────そう決意したはいいものの、彼の擬態はとことん完璧だった。
尻尾を掴もうにも、あの放課後以来、露骨な状況を捉えることができないでいた。
暴いてやりたいのに、その材料すら得られないでいらいらする。
いくら触れ回ったところで、言葉だけで信じるやつなんているわけない。
どうすればいいだろう。
正義という建前があれば、手段なんて二の次だ。
俺のせいで傷つく誰かがいたって仕方ない。
いっそのこと、あえてあいつに悪事を押しつけるのも有効かもしれない。
尻尾が掴めないなら、でっちあげればいい。
まったくのでたらめってわけでもないんだから。
……そうだ。
はたと思いつく。
そのために、乙葉と協力することはできないだろうか。


