だけど、家に帰って机の引き出しを開けると、例の封筒が現れる。
ぐしゃぐしゃにしわがついて泣いているみたいだ。
こんなの俺が持っているべきじゃないし、いますぐ捨てるべきだ。分かっている。
それでもなぜか手放せないでいると、目に入るたび俺にあの日の現実感を訴えてきた。
『……くだらな』
耳にこびりついた無感情な声。
何も映していないような枯れた双眸。
いままで俺やみんなに見せてきた姿はぜんぶ演技で、本当はことごとく冷たい性格の持ち主なんだろうか。
他人を傷つけることも厭わない、打算的で非情なやつ。
認めたくなくても、信じたくなくても、この封筒が証明していた。
それからはいままで通り接しながらも、どうしても警戒心を抱かずにはいられなくなった。
いつ人前で本性を晒すか。
彼が口を開くたび、誰かと話すたび、自然と目を光らせるようになった。
もし誰かに直接あんな顔を見せるようなことがあったらフォローしてやらないと。
千紘の名誉が傷つかないよう、俺が守るしかない。
────そのうち、あることに気づいた。
誰にでも優しい千紘だが、なぜかひときわ乙葉を気にかけている。
特に注意して観察していたら、一見親しげに見えたふたりはある日を境にお互い妙な態度を取るようになった。
何かあったことは間違いない。
何があったんだろう。
どことなく気まずそうな雰囲気からして、もしかして乙葉が振られたとか。
往々にしてありうる話だ。
それに、千紘が告白を“くだらない”と思っているなら、想いを寄せられること自体がうっとうしくて相手をぞんざいに扱いかねない。
あの冷ややかな性分をあらわにしたら、乙葉が無闇に傷つくことになる。
「千紘、何してんの?」
だから、なるべくふたりが話しているときは割って入るようにした。
「早く来いよ、置いてくぞー」
「……うん、ごめんごめん。いま行く」
強引に切り上げさせるべく気を回し、最悪の状況を免れる。
他愛もない話をしながらふたりで廊下を歩いていると、すれ違った女子生徒が「あ」と声を上げた。
「速見くん。いまから移動?」
「あ……うん。1時間目、情報なんだ」
「うわ、眠いやつだ。朝から大変だね。頑張って」
「ありがと」
嬉しそうに手を振る彼女に頷き返す千紘。
きびすを返したその後ろ姿を見て、ぴんと来る。
「いまのって」
あの子だ。
放課後、千紘と裏庭へ向かうところを見た。
あの、手紙の彼女。
「ん?」
「何でもない」
思わず口に出しかけてしまい、慌てて飲み込む。
歩いていく彼女を眺めつつ千紘に尋ねた。
「あの子、友だち?」


