帰宅すると、案の定と言うべきか待ち構えていた母親から叱責を食らった。
ぐちぐち続く小言を無視し、2階にある自室へ逃げ込む。
「ああもう、うざい。うざいうざい……!」
わたしだって時間とお金の無駄だと思っている。
バーガーショップでポテトとシェイクをつつきながら亜里沙の話に耳を傾け、杏とふたりでご機嫌取りをして。
少しでも遅れを取らないように、付き合いが悪いと見切りをつけられないように。
なんてくだらない。
でも、いくらくだらなくてもこれが正解なんだ。
学校という舞台に、教室という狭い世界に身を置くわたしたちは、そこで築いた人間関係に生きやすさを左右されるから。
ひとりぼっちは地獄。
どれだけ惨めで虚しいか、中学の頃に身をもって実感している以上、絶対に逆戻りしたくなんてなかった。
気が立つ中、おざなりにイヤホンを放る。
孤独を恐れて嫌うくせに、周りの誰も彼もがうっとうしかった。
誰ひとりいなくなったら楽になるのに。もちろん、わたし自身も。
どうせ透明人間なら、このまま消えてしまいたい。
握り締めていたスマホに目を落とす。
強く力を入れすぎて手と一体化していたような感覚だった。
ほとんど無意識のうちにSNSを開く。
(今日はどうしようかな)
現役女子高生インフルエンサー“Oto”。
フォロワー1万人弱だと、厳密にはナノインフルエンサーと呼ばれるらしい。
『うちらと同い年の女の子なんだけど、めっちゃすごいの! おしゃれで頭よくて運動部でも活躍してて、親がIT企業の社長らしくて超お金持ち。あと、優しい彼氏がいるって』
亜里沙の言葉が蘇る。
笑ってしまうくらい盛りに盛り込んだ要素はぜんぶ、余すことなく嘘だ。
Otoはわたしの作り上げた虚像。ニセモノ。
実際のわたしは何の取り柄もない平凡な人間だ。
勉強も運動も人並み、普通の家庭育ち、誇れるような自慢も特技もなく、どこにでもいるような人間。凡人。
だけど、だからこそ画面の中でだけは理想の自分でいられる。
みんな欲しい言葉を望むだけくれるし、羨望を一身に浴びて満たされる。
『え、何その絵に描いたようなリア充。やば』
『マジなんだって! 顔出しとかはしてないけど、もう絶対美少女! あたしもこんなきらきらした青春送りたいわー』
ふと爆風のように優越感を煽られた。
Otoは完璧な勝ち組────わたしの居場所はここだ。
(そうだ、今日は……)


