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     ◇



 ベッドの上に置いていたスマホが鳴った。
 SNSの通知。
 朝以降、成り行きが気になってジョーカーの投稿通知をオンにしていたのだ。
 慌てて手に取り開く。

【速見千紘は偽善者】

 そんな文言とともに1枚の画像が添えられていた。
 “速見くんへ”と書かれた封筒が、中の便箋ごと縦に破り捨てられている写真。

「何これ……」

 率直な戸惑いがこぼれた。
 もしかして、これはいわゆるラブレターだろうか。
 それを速見くんが見もしないで破り捨てた、だから非難している、そういうこと?

 じゃあ、ジョーカーはこの手紙の差出人だったりするのかもしれない。
 偶然、自分の手紙が捨てられていることに気づき、ショックを受けた。
 想いが恨みに変われば、復讐に目覚めるのは自然な流れだろう。
 受けた無慈悲な仕打ちを暴くことで、速見くんを貶めようとしているのかも。
 ないがしろにされた仕返しに。

(クラスにいる、速見くんのことが好きだった誰かがジョーカー?)

 誰なんだろう。
 少なくとも彼女は、速見くんを潰すまで続ける気だ。

 ただ、何となくいまは、彼が封も破らず手紙を捨てたことに驚きもしなかった。
 最低だと一概に切り捨てることも。
 もちろん、褒められた行動じゃない。
 でもたぶん、彼も彼で苦しかったと思う。

 求められるのはいつだって完璧な速見くんで、好かれるのはそんな虚像の自分。
 うわべだけ切り取って、見たいように見た結果が手紙にはつらつらと並べ立てられているんだろう。
 Oto(わたし)を好きだと言ってくれた無名のコメントを思い出す。
 あんなふうに、きっと虚しかったはずだ。

 仮面を落とした彼と話したあとでは、そんなふうに想像が及んだ。
 だから少し心配になった。
 速見くんはジョーカーからの一連の言葉を、どう受け止めているんだろう。
 明日の教室は、どうなっているんだろう。



     ◇



 廊下から足を踏み入れた途端、スマホが震えた。
 見なくても何となく察する。
 早くもジョーカーが動いたんだ。

【速見千紘は卑怯者】

 添付されていたのはメッセージアプリのスクショだった。

 “ぜんぶどうでもいいくせに”。
 “どうせ意味ないのに捨てきれないなんて”。
 “贅沢なんだよ”。

 送信者は一方だけで、相手からの既読や返信らしきものは見当たらない。
 妙なメッセージに困惑していると、クラスメートたちのひそひそと囁き合う声が耳についた。

「これって、速見くんとのトーク画面ってこと?」

「え、でもさ……吹き出しの向き的に送ったのは自分だよね。送ったのが速見くんなの?」

 確かにどういうことなんだろう。
 ジョーカーとのトーク画面なら、ジョーカーが速見くんを責めているように見えなくもないけれど、やり取りですらないそんな画面を添付しても仕方ない。

 本当に速見くんが送ったものなら────。