ふと視線をもたげた天沢は、背筋を伸ばしてこちらを見た。
「でもさ、それ……わたしの願望でもあるけどあんたの本音でもあるよね」
それ、が何を指すのか思い至るまでに時間を要した。
────けど、やっぱり本当は諦めきれなかった。自分を偽らなくても受け入れて欲しいって。
────天沢は……その願望を僕やOtoに投影してたんだよ。
自分の言ったことを思い出す。
随分間を置いて言葉が返ってきた。
「……認める」
素直に頷くと、天沢はおかしそうに笑った。
ごく自然につられて、屈託なく笑い合う。
“いい子”じゃない僕は、我ながら冷めた性格だと思う。
自分がよく思われるための紛いものの優しさしか持ち合わせていない。自己満足でしかない。
誰かと分かり合うとか信じ合うとか、そんなのおとぎ話か青くさい幻想。
所詮、見たいように見られるだけなら他人となんて関わるだけ無駄だ。
どれだけ仲を深めたところで、僕は完璧な仮面を外せない。
見られたいように見てくれて本望なはずなのに、それじゃ満たされない矛盾。
傍目には分からない孤独感や痛みを飼い慣らしてきた。
そんな自分に嫌気がさすほど、ますます偏屈になっていった。
ひとの優しさを信じられず、ひとの好意を錯覚だと鼻で笑い、何も期待しないよう戒めてきた。
本当の僕を知ったら、きっと失望されて嫌われるから。
つくづく思う。本質的なところは天沢とよく似ている。
だからこそ、たぶん僕も彼女に自己投影していた。
必要以上に気になってしまったのは、構って余計なことばかり垂れてしまったのは、そのせいだろう。
窮屈そうな天沢の笑顔を見ていると苦しくて。
SNS上では僕と同じ種類の仮面を被っていると知って。
解放してやれば自分も救われるんじゃないかと期待し、思い上がり、余計むきになったんだ。
なんて身勝手で子どもっぽい真似をしていたんだろう。
自分を守るために自分を殺すなんて、どんな矛盾だ。
本当、青春というものはまったく矛盾だらけで、青くて痛くて濁っている。
だけど、いまは不思議とすごく清々しい。
自分の内側が透き通っている。
天沢が自嘲するようなやわい笑みをこぼした。
「あーあ。わたし、ばかだね。遠回りして利用されて、何がしたかったんだろう。もっと早く正直になってればよかった。もっと早く……気づいてたら」
何に、とは言わなかった。
でもそれは僕も同じで、だから僕の中に答えがある。
「…………」
何も言わずに空を見上げた。
嫌味なくらい綺麗な蒼穹が眩しくて目を細める。
決めた。
じたばたするのはやめだ。
このまま、自分の“死”を見届けるのも悪くないかもしれない。
そしたら何かが変わるんだろうか。
僕は救われるんだろうか。
それならどうか早く、息の根を止めて欲しい────。


