なぜか、何となくその口ぶりから想像が及んだ。
 好かれてはいないが嫌われているわけじゃない、そんな人は確かにいまのクラスにもいる。
 目を引く魅力があるわけじゃないが、悪い人じゃないし嫌う理由もないから“クラスメート”というモブに置いておく、そんな感じ。

 天沢の場合は新学年が始まったタイミングだから、恐らくもっとシビアだっただろう。
 みんながみんな様子見する中で、あるいは既にコミュニティが出来上がっている中で出遅れ、警戒を解くのに時間をかけすぎた。

 授業中に当てられようものなら、勉強はそんなもんか、って。
 体育のときに同じチームで試合しようものなら、貢献しないと役立たずとして秒で切り捨てられる。
 机を寄せ合うことなく昼を食べていれば、友だちがいない寂しいやつのレッテルを貼られる。
 あー、あの子ってそういう感じなんだ。
 ────大げさじゃなく、一挙一動を査定されているような感覚。
 僕が声をかけてきた“あぶれている子”は大抵そんな感じだった。

 一緒に行動する友だちがいれば、そのステータスによっては周囲の評価が甘くなるかもしれない。
 でも、ひとりだとすべて自分次第だ。
 なんて息苦しかっただろう。

「でも、それなら誰かに声かけたりとかすればよかったのに」

「したよ、最初は手当たり次第。けど、そのときは歓迎してくれても次はない。絶対に自分からは声かけてくれないの」

 だから、しんどいってことか。
 明確に嫌われたり避けられたりしているわけじゃないからこそ、どうしようもない。

「女子ってある意味単純だから、一緒に教室移動するとか一緒にパス練習するとか一緒にトイレで悪口言うとか、それだけで繋がってるって安心できる。だけど、それさえ必要とされないって本当、本っ当にこたえた」

 目を落としたまま笑う姿は弱々しく、見ているこっちにまで痛みが伝染してくる。

 だが、ようやく腑に落ちた。
 天沢があれほど“友だち”に執着していたこと。
 自分を犠牲にしても、空回りしても、必死でしがみついていたこと。

 孤立するのと天秤にかけたら、そっちの痛みの方がまだ耐えられるものだったんだろう。
 自ら一匹狼を選んだわけじゃないから“ぼっち”と称した。
 孤独の苦痛を知り尽くしている以上、それは二度と味わいたくない屈辱だったにちがいない。

「一年が地獄みたいに長かったよ。あー、あの教室に速見くんがいたらよかったのに」

「……確かに僕ならほっとけないな」

「だよね。わたしのためじゃなくても、染みただろうな」

 何となく最初より吹っ切れたような顔をしている。
 たぶん、僕も。