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 そう言うとまたすぐに歩き出した。
 わたしを避けるふうでもなく、ここにいていいと無言で許される。

「驚いたのはこっちだよ。朝の、あれ何?」

「だから……それは僕に聞かれても」

「じゃなくて。わたしを庇ってくれたの?」

 その綺麗な横顔を見上げるけれど、何ら表情は変わらない。
 教室で普段見るより何となく影が濃いのは、ここが木陰だからだろうか。

「別に、好きに解釈してくれればいいけど。僕が天沢を庇う理由なんかないよ」

「だから変だと思ったんだよ。昨日からの流れで、わたしをはれもの扱いしとけば安泰だったじゃん」

「……そうかもね。やっぱ、僕って中途半端だな」

 静かに嘆いた速見くんを見て、尖っていた警戒心が徐々に和らぐ。
 ぜんぶが丸く削ぎ落とされはしなかったけれど。

「あのさ、一応言っとくけどわたしじゃないからね」

「ジョーカー?」

 頷くと、彼はふっと笑った。

「分かってるよ。誰かさんと一緒にしないでくれる?」

 刺々(とげとげ)しく毒づかれるも、誤解されてはいなかったようでほっとした。
 ただ、そう言う割に信用してくれているという雰囲気でもない。
 無論、わたしも。

「わたしはまだ疑ってるから」

 例のアカウントを黒板に書いた人物がジョーカーじゃないとすると、相対的に速見くんへの疑惑が深まる。
 あの件は今回の暴露とはまた別の話かもしれない。
 彼は、だけどわたしのスタンスなど分かりきっていたみたいに適当に頷いて言う。

「はいはい、好きにしたら?」

 それからふと思い立ったように、真横に広がっていた公園へと足を踏み入れた。

 午前中にぱらぱらと降っていた雨の気配を微塵(みじん)も感じさせないほど、砂も遊具も既に乾いている。
 ひとけはなかった。
 普段はいるであろう親子連れや小学生は、まだ水溜まりが広がっているだろうと踏んで諦めたようだ。

 追いかけるか迷って、結局あとに続いた。
 掴みどころのない速見くんの輪郭が、いまなら普段より鮮やかに浮かび上がっている気がして。
 ただ、何となく、呼ばれているような気もした。

 彼は下ろしたリュックを支柱の根元に置くと、緩慢(かんまん)とブランコに腰を下ろす。
 わたしも適当に鞄を下ろし、境界のように周りを囲む柵に浅く座った。

「間違ってはないよね」

 何の脈絡もなく、ふいに切り出される。

「現に、みんなの前での僕はニセモノなわけだし。騙してるみたいなもんだよ」