「あんま無理しなくていいんじゃない? ありのままの自分を好いてくれるやつが絶対いるはずだから」

 続けられた安っぽい綺麗ごとで一気に感情が冷めてしまう。
 確かに求めていた言葉。
 だけど、響かない。

(それは、辻くんがみんなに愛されてるからそう言えるんだよ)

 所詮は他人事。
 彼がどの程度本気でそう思っているのかは知らないけれど、何だかすごく距離を感じた。

 わたしのことが、わたしの気持ちが、辻くんにだって分かるわけがない。
 うわべだけなぞって分かった気になるくらいなら、最初から踏み込んでこないで。

 共感を求めるくせに、優しさに素直に感謝できない自分が嫌になる。
 彼は悪くないのに。
 暗色に染まりきった胸の内を覆い隠し、辛うじて笑みを返した。

「……ありがとう」

 いま示せる、精一杯の誠意だ。
 “味方だ”と言ってくれたことだけは嬉しかった。



     ◇



 登校すると、教室内の空気に異変を感じた。
 みんなスマホを手にそれぞれ寄り集まり、何かを囁き合っている。

 またわたしのことを言われているのか。
 そう思ったけれど、昨日とちがって彼ら彼女らの視線がこちらに寄越されることはなかった。
 一日でほとぼりが冷めるとは思えないけれど。

(何かあったの?)

 鞄を下ろすと、わたしもスマホを手にSNSを開いてみた。
 タイムラインを見てはっと息をのむ。

【速見千紘は嘘つき】

 ジョーカーの投稿だった。
 添付されていた動画の再生ボタンをタップする。

(これ、って……)

 昨日の出来事だ。
 朝、屋上でわたしと速見くんが話していたときの様子がおさめられていた。
 風の音が邪魔で声はほとんど聞こえないけれど、わたしが“あんたのせいで”とか“何も知らないくせに”とか喚いているのは何となく入っている。

 あのとき、本当に誰かいたんだ。
 動画の画角的にも、塔屋付近で人影が見えたのは気のせいじゃなかった。
 まさか、それがジョーカーだったなんて思いもしなかったけれど。

「ねぇ、何これ?」

「速見くんと天沢さんだよね。何かあったってこと? 喧嘩とか」

「“嘘つき”って何……?」

「天沢さんに何かしたんじゃない? 何にしてもマジだったら何か幻滅なんですけど」

 さざ波が立つように教室に困惑が広がっていく。
 それぞれが窺うような案ずるような視線を速見くんに向けていた。
 当の本人もくだんの投稿を目にしたのか、スマホ片手に立ち尽くしている。