一花は自分の席についたまま悠々と腕を組み、配下による断罪を静観している。
この空気を変えられるとしたら速見くんくらいのものだろう。
────天沢の居場所はなくさせない。俺ならそれができるから。
本人も自負していた通り、あれはそういう意味だ。
だけど、彼はいまこの場にいない。いたとして、わたしを助ける気なんてさらさら持ち合わせていない。
お調子者である辻くんもいないから、貴族たちの作り出したムードが場を支配していた。
意味が分からない。
わたしは別に罪人でも何でもないのに。
確かに嘘はついていた。SNS上では虚飾にまみれていた。
でも、別に誰にも迷惑はかけていない。
責められる筋合いなんてない。
むしろ、被害者はわたしの方だ。
Otoの件とは関係ないけれど、わたしが彼女たちにどんな目に遭わされてきたか。
いまさら自分を誤魔化す必要なんかない。
ずっと虐げられてきたんだ。
搾取され、心ごと踏みにじられてきた。
そう自覚するとたまらなくなり、鋭く小夏たちを見据えた。
何か言ってやろうと思ったものの、それより先に真穂が口を開く。
「てかさ、あんたずっと痛かったよ。マジでうちらの友だちになれたとでも思ってた? 同じグループの一員だって?」
「え……」
「なわけないし! なーに夢見ちゃってんの? マジ単純で笑える」
こんなやつらの言葉に一喜一憂したくないのに、さすがに声と表情が引きつる。
「明らかに釣り合ってないでしょ、あんたみたいな根暗」
「なのに必死に背伸びしてさ。パシられても笑いものになっても気づかないんだもん、鈍すぎ」
「それしか能がないから使ってあげてたんだよ? じゃなきゃぼっちだったでしょ。感謝してよねー」
笑い声がこだまする。
噛み締めた唇が痛い。うっすら涙が滲むほど。
「……っ」
気づいてたよ。気づいてた。
気づかないふりをしていただけ。
あんたたちの言う通り、ひとりぼっちになりたくなかったから。
自分の心と天秤にかけて、そっちを犠牲にすると決めた。
そのために必死で痛みに鈍感になったんだ。
あんたたちには分からない。
一花の代弁者に徹しさえすれば居場所を確立できるあんたたちには。
きっと、いままでもそうやって強者に媚びて甘い蜜を吸ってきたんだろう。
卑怯に立ち回ってきた彼女たちに、わたしの生き方を非難される謂れなんてない。
まともに取り合う必要なんかない。
なのに、それなのに血が止まらない。
抉られた心からあふれ出していく。
「────やめなよ、もう」


