でも、ちがう。
 こんな目じゃない。
 こんなふうに憐れみや嘲笑の的にはなっていなかった。
 Otoは、わたしは何でも持っていて、何でもできるみんなの憧れだったのに。

 ────本当に?
 ひときわ冷静な自分が(てい)すると、いつか消したはずのアンチコメントがありありと蘇ってくる。

 “嘘(おつ)ww”

 “盛りすぎww いまどきこんなキャラ設定流行らんだろ”

 “リアルが虚しいからって何か可哀想”

 彼ら彼女らにも見抜かれていた。
 いや、ああいう人たちはただ理由もなく噛みつきたいだけかもしれないけれど。

『楽しい?』

 速見くんの問いかけがまた、(すさ)んだ心に塩を撒き散らしていく。
 ああ、もう本当に最悪。
 恥ずかしいし情けないし、腹が立つし悔しい。
 どうすればいいんだろう。
 わたしは……どうなるんだろう。



「これ、あんたなんだって?」

 休み時間になった瞬間、小夏たち取り巻き3人に机を囲まれる。
 掲げられたスマホにはOtoのアカウントが表示されていた。

 逃げ遅れた。
 ずっとは無理でもいまは触れられたくなくて、絡まれたくなくて、休み時間はどこかに隠れておこうと思っていたのに。

「すごいじゃーん、陽キャで人気者でめちゃくちゃ持て(はや)されててさ」

「えーっと、なになに? 美人でかわいくて成績優秀で、運動神経も抜群で親がIT企業の社長? どこが? マジでウケるんですけど!」

「さすがに盛りすぎじゃね? ステータス完璧の勝ち組じゃん。逆によくこれで通用してたよねー!」

 甲高い笑い声が耳の奥でこだまする。頭が痛い。
 3人が3人とも情け容赦なく鋭い言葉を突きつけ、見事にわたしを晒し者にしてきた。
 教室中の関心がこちらに向いているのが分かる。
 まるで処刑を待つ罪人みたいな気分だった。

 否定も肯定もできないまま、ただきつく口を結んで耐える。
 ぽん、と真穂がわたしの肩に手を置いた。

「痛いねー。現実逃避して、SNSの中では人気者気取ってたんだ?」

「大人しそうな顔してめちゃくちゃ悪口言ってたもんね。相当、鬱憤(うっぷん)溜まってたんだね」

「言ってない……!」

 無意味だと分かっていながら、往生際悪くもとっさに言い返す。
 案の定、水を得た魚のように彼女たちの瞳がひらめいた。

「言ってたじゃん、亜里沙の悪口。……ねぇ?」

 紗雪が振り向いた先には杏がいた。
 成り行きを見守る亜里沙の横に立っていた彼女は、唐突に振られて戸惑いを見せる。
 一拍の沈黙を経て、毅然(きぜん)と顔を上げた。

「言ってた」

 小夏たちは目を見交わし笑い合う。
 あの場に居合わせていた杏が証人であることは紛うことなき事実で、やっぱりわたしの反論はまったく意味がなかった。
 ただ、この期に及んで保身に走った浅ましさに嫌気がさす。
 重々しい空気感で呼吸が苦しい。