(嘘つき。嘘つき……!)
失うものがないなんて嘘じゃん。
本当はいまある人気や名声を失うのが怖かったんだ。失望されるのを恐れたんだ。
だから、裏切った。
そもそもそういう体面に固執するから、好かれたいからこそ自分を偽っていたんだろう。
じゃなきゃ、あの憎たらしい本性を最初からみんなに晒していればよかっただけだ。
自分のためにわたしを売ったんだ。
失敗した。
じゃあ、脅迫なんてするんじゃなかった。
最初にバレたとき、中途半端に流して受け身になるんじゃなかった。
あいつみたいに強気に出ていればよかったんだ。
失うものなんてない、って豪語しておけば、暴いても無駄だと思わせて牽制できたのに。
すっかりしてやられた。
お陰でわたしは手遅れだ。
いまやり返すように彼の本性をバラしたところで、いったい誰が信じる?
「……っ」
息が苦しい。溺れたみたい。
駆けていた足を止めると目眩がした。
人の目の届かないところ、声が聞こえないところを無意識のうちに求め、いつの間にか屋上にたどり着いていた。
立ち入り禁止にはなっていないものの、飲食が禁じられているせいであまり人が来ない場所だ。
特に朝なんてまず誰もいない。
震える手でドアノブを回し、少し黒ずんだコンクリートに足をつける。
吹きつけた風に煽られた。
ふらふらと歩み出て、フェンスにしがみつく。
もう、消えてしまいたい。
逃げたい。
八方塞がりで詰んだ現状からも、痛くて惨めな自分からも。
だけど、所詮はそんな度胸もない。
張り巡らされたフェンスは高くて、すごく高くてわたしにはとても乗り越えられない。
半端な臆病者でしかないから。
「終わった……」
へたり込むようにしゃがんでうなだれる。
そのままどこまでも沈んでいくような気がした。
いったい、どんな顔をして教室に戻ればいいんだろう。
脳裏にこびりついて離れない。
好奇の視線も、面白がって半分笑ったような口元も。
これから絶えず向けられることになるのかと思うと気が滅入る。
キィ、とふいにドアが鳴いて目を開けた。
振り向いてその姿を認めると、一瞬にして熱がぶり返してくる。
感情が揺れ、滾った。
「いた。……よかった」
何が“よかった”んだか、いくらか力を抜いた速見くんを睨めつける。
フェンスを支えに立ち上がった。
「なに、嘲笑いにでも来たの? この通り、速見くんのせいでめちゃくちゃだよ」
「僕の?」
「そうでしょ、速見くんがバラしたから……! あんたのせいでわたしは!」
「ぜんぶ自分が招いたことじゃないの」


