(Otoみたいにお金持ちだったらよかったのに)

 最近はすっかり手が遠くなり、投稿はおろかそのアカウントを覗くこともしなくなっていた。
 速見くんにバレたせいで、自ずと彼のことがよぎってしまうからだ。
 そのたび気まずい思いに苛まれるんだから、遠のいて当然と言えば当然だろう。

(いったい、いつまでわたしを泳がせとくつもり?)

 彼と話すときに必要以上にナーバスになってしまうのは、いつみんなにバラされるかという焦燥や恐怖でひやひやしているせいもある。

『聞いていいか迷ったけど、これって天沢だよね?』

 あれ以降、そのことには一切触れてこないのが逆に不気味でさえあった。
 本当にただの親切心で黙っていてくれているのか信じきれない。

 何となく干渉してくるようになったのもそれからだし、目的というか意図が読めないのだ。
 だから、怖い。

「いっそのこと消しちゃおうかな……」

 ずっとはらはら気を揉み続けないといけないなら、そもそも不安の種ごとなくしてしまえばいい。
 どのみち、いまのわたしにとってOtoは精神安定剤としても不足だ。
 むしろ理想と現実のギャップを痛いほど突きつけてくる凶器に近い。
 それなら、別に消したって問題ないように思える。

 ベッドの上からスマホを手繰り寄せ、SNSを開いた。
 リアアカから切り替えようとしたとき、ふと思い至る。

 でも、そっか。
 アカウントを“消し逃げ”したところで、速見くんがスクショなんかを残していたら無意味だ。
 いまさら手遅れ。

 深々とため息をついたとき、指先が画面に触れてしまった。
 タイムラインからダイレクトメッセージのタブへと切り替わる。

「ん?」

 一番上に表示されている最新のやり取り、その相手の名前を見て驚いた。

「ジョーカー……!?」

 ジョーカーというと、昼休みにクラスメートたちを一斉にフォローした謎のアカウントだ。
 メッセージのやり取りなんてした覚えはない。
 それなのに、どうして?

 慌てて会話画面を開く。
 そこにはさらに驚くような履歴が残っていた。

 “突然すみません。相談したいことがあります”

 “今日の放課後、裏庭で待ってます”

 “亜里沙に関することです”