「あ……ごめん、いま本当に金欠でさ。親もお小遣い渋るしバイトもできないし、マジでお金ないんだよね」

 なるべくおどけたふうに明るく言ったものの、それに合わせて笑ってくれる気配はなかった。
 真顔のまま、一花が悠然(ゆうぜん)と腕を組み直す。

「で?」

 頬が引きつった。
 鋭い眼差しと高圧的な態度に怯んでしまい、完全に言葉を失う。

「乙葉が来ないなんてありえないって!」

「そうだよ、乙葉がいるから楽しいのにー」

「ね、行こうよ!」

 示し合わせたかのように小夏たちが口々に言う。
 ……求めているのはわたしじゃなくて、ただ無条件に奢ってくれる都合のいい存在でしょ。
 どれだけ、本当にどれだけ(しぼ)り取れば気が済むわけ?

 だけど、お互いさまと言えばお互いさまだ。
 わたしも彼女たちのことを友だちだなんて思っていない。
 体裁(ていさい)やステータスのために一緒にいるだけ。その()を借りているだけ。
 恩人は恩人でも、嫌いでしかない。

「もうー、分かった。みんなわたしのこと好きすぎ」

「あはは、やったー。でも、うざ」

 調子乗んな、と笑いながら小突かれる。
 そっちこそ。
 わたしはぜんぶ分かった上で乗ってあげてんの。

「楽しみー。あたし、ケーキもつけちゃおうかな」

 あーあ、困ったことになった。
 フラストレーションに(さいな)まれる中、どうやってお金を工面するかという問題が頭をもたげてくる。
 放課後までに何とかしないと────。



 先行ってるね、と一花たちが校門へ向かい、残されたわたしは教室で途方に暮れていた。

 どうしよう。
 全員分奢るには絶対にお金が足りない。
 結局、どうすることもできずに放課後になってしまった。

 どうしたらいいだろう。
 いますぐどうにかしようと思ったら、誰かに借りるか最悪盗むか、それくらいしか思い浮かばない。
 でも、借りるって誰に?
 誰なら助けてくれる?

 血走ったような双眸(そうぼう)で素早く視線を巡らせた。
 亜里沙たちに目が留まる。

 半歩踏み出しかけたとき、亜里沙もまたこちらを向いた。
 ぱっと愛想のいい笑顔をたたえて手を振ってくる。

「また明日ね、乙葉」

 浮かせたつま先を力なく床につけた。
 すぅっと熱が引いていくような感覚を覚えながら曖昧に笑い返す。

「……うん、またね」

 横にいた杏は気に食わない様子でわたしを無視し、亜里沙亜里沙とばかのひとつ覚えみたいに必死に話しかけていた。
 嫌な感じ。
 変わらないな。やっぱり嫌い。

 連れ立って教室を出ていくふたりを見送りながら、重いため息をついた。