思わぬ言葉にはっとして振り向く。
 責めるでも呆れるでもなく、ただただ疑問を(てい)するような雰囲気で彼は続けた。

「言ってたじゃん。満たされてるって。理想通りだって。どうなの?」

 ぎゅう、と手に力が込もってタオルが潰れる。
 強がり続ける余裕は、ない。

「……なわけないでしょ」

 きつく口の端を結び、きびすを返す。
 どんな目で見られているか、考えたくもなかった。



 昼休みになると、いつものように頼まれたものを買い揃えて配った。
 そのお陰か、執行猶予(しっこうゆうよ)とでも言うべきか、わたしは再び彼女たちの輪に加わることを許されていた。

 今朝の出来事なんてまるでなかったみたいに、誰も触れようとしない。
 髪や制服が乾いていくにつれ、鮮烈な衝撃も薄れつつあった。
 悪ふざけが過ぎた、ただそれだけのこと。

 ふいにスマホが短く震える。
 見ると、SNSの通知だった。

『Jokerさんにフォローされました』

 Otoのアカウントの通知は切っているので、リアアカの方だろう。

(でも、Joker……ジョーカー? って誰だろう)

 開いてみるけれど、アイコンは初期状態のままで自己紹介欄も空白。
 いまのところ何の投稿もしていなかった。

「何こいつ」

 呟いたのはわたしじゃなく一花だった。
 代弁するようなひとことに驚くと、彼女も小夏たちもそれぞれ自身のスマホを見ていた。

「何かきもいんだけど、こういうアカウント」

「手抜きすぎかよ」

「え、まさかみんなも?」

 いっそう驚いて目を見張る。
 ここにいる5人全員がほぼ同時にフォローされたみたいだった。

「ん? てか、クラス全員じゃない?」

 Jokerのフォロー欄を見てみると、確かにクラスメートたちと思しきアカウントが並んでいた。
 逆に言うと、それ以外にはフォローしていない。
 顔を上げて教室内を見回してみれば、確かにそれぞれ訝しげに、あるいは困惑の笑みでスマホを手にしていた。

「ますます気持ち悪いって。誰だよ、こいつ」

「クラスの誰かとか」

 思いつきを口にすると、一花が気味悪そうに眉をひそめる。

「どっちにしてもやばいやつでしょ。全員のアカウント特定して……何が目的?」

 クラスの人間であれ、外部の人間であれ、何らかの思惑を忍ばせているとしか思えなかった。
 嫌な胸騒ぎが渦巻き出す。
 それが膨張していく前に、一花がごとりとスマホを伏せた。

「まあいいや。それよりさ、今日コーヒーショップ行かない? 新作飲みたい」

「あ、いいねー! フルーツのやつだっけ。あたしも飲みたい!」

 わっと盛り上がる雰囲気に気圧され、わたしの心には影が差していく。
 心臓をつままれたような気がした。

「乙葉も行くよね?」