(……羨ましいな)

 屈託(くったく)なく友だちと笑い合って、空気の読み合いなんかしなくてもいつも楽しそうで。
 つい、そんなことを思う。

 繕わなくてもあれが素なら、どれだけ生きやすいだろう。
 持って生まれた(うつわ)がちがうんだろうな。
 何の努力もしなくても、当たり前に輪の中心にいる彼が本当に羨ましい。

(実はアンドロイドだったりして)

 決して間違わない完全無欠な人気者として、完璧にプログラムされたアンドロイド。
 そんなばかみたいなことを考えてしまうほど、なんて言うか異質で崇高(すうこう)な存在なのだ。

 だけど、彼もまた“透明”だった。
 何の色も形もない。
 ただ、速見くんの場合は濁りがなくて透き通っていて綺麗な感じがする。

 同じ透明でも、わたしが空気なら彼は水と言ったところだ。
 ちゃんとその存在感に質量がある。

「あ。ねぇ、見てこれ。昨日見つけてフォローしちゃった」

 ふいに亜里沙がスマホを掲げる。
 その画面にはSNSのアカウントページが表示されていた。

 名前は“Oto”。フォロワー数1万人弱。
 目にした瞬間、心臓を鷲掴みにされる。

「なに? 誰?」

「うちらと同い年の女の子なんだけど、めっちゃすごいの! おしゃれで頭よくて運動部でも活躍してて、親がIT企業の社長らしくて超お金持ち。あと、優しい彼氏がいるって」

「え、何その信じられないくらいのリア充ぶり。やば」

「マジなんだって! 顔出しとかはしてないけど、もう絶対美少女! あたしもこんなきらきらした青春送りたいわー」

 どこか懐疑(かいぎ)的な苦笑を浮かべる杏に亜里沙が熱弁する。
 胸のざわめきを飼い慣らし、わたしも身を乗り出した。

「へぇ、すごいね。そんな人が本当にいたら、人生めっちゃ楽しそう」

「てか、楽だろうね。イージーモード」

 わたしにそう返した亜里沙の声色には何となく棘があり、羨望(せんぼう)の奥に嫉妬が潜んでいる気配があった。
 誰もの心に巣食うやっかみだろう。

「だってさ────」

 亜里沙が口を開きかけたとき、唐突に輪の方から甲高い笑い声が響いてきた。
 一花(いちか)だ。
 速見くんの隣を陣取り、大きい顔をしている。

「……うるさ。マジうざい」

 あからさまに嫌そうに顔をしかめる亜里沙。
 言いたいことは分かる。

 一花はいわゆるクラスの女王。1軍女子のトップに君臨する存在。
 なめらかな焦げ茶色の髪にすらりとしたスタイル、はっきりとした顔立ち。
 そんな目を引く容姿だけでなく、態度もまた高飛車(たかびしゃ)そのもので存在感しかない。