何となく反応が怖くて、言葉尻が萎む。
 それぞれが口をつぐんでしまい、冷えた沈黙が落ちた。
 3人とも分かりきったような顔でクイーンの出方を待っている。

「あー、悪いけどいま持ち合わせないんだよね」

 艶やかな髪をいじりながら、一花が言った。

「分かってくれる?」

「…………」

 最初からずっとそんなふうに(かわ)され続け、いままで1円たりとも返ってきたことはなかった。
 いつしかわたしの奢りが当然となり、そもそも払う気も返す気もないのだと察するに余りある。

 だけど、諦めるしかなかった。
 言わば“友だち料”とでも言うべきだろう。

 だからこそ、彼女たちはわたしの存在を受け入れてくれている。
 ここにいてもいいと許してくれるのだ。

(でも、これって……)

 パシリよりももっとひどい、残酷な言葉が浮かぶ。
 搾取(さくしゅ)
 掠めた瞬間、振り切るようにかぶりを振った。

 ちがう、そんなんじゃない。
 一花たちは恩人。
 あのまま孤立して、嫌われて、ひとりぼっちになって、ことあるごとに同情や憐れみの視線に晒されることになったいたであろうわたしを救ってくれた。
 その恩に報いるのは当たり前のことだ。
 対等を望むなんて間違っていた。
 それがそもそも図々しいうぬぼれだった。

 余計なこと考えてないで笑え、わたし。
 それがここで求められているわたしのキャラなんだから。

「うん、もちろん! ごめんごめん、また買ってくるからいつでも言ってね」

 そう言うと、一花は満足気に微笑んでいた。



 昇降口を出たとき、眩しい日差しが照りつけてきた。
 今朝、辻くんが暑いと言っていたけれど、放課後のいまの方がきっと気温も上がっている。

 一花たちに今日も遊びにいこうと誘われたものの、さすがに笑えないほど金欠で断った。
 明日のお昼の分が足りるかどうか。
 駄々をこねるように粘られたけれど、半ば無理やり断ったから、もしかしたらいくらか機嫌を損ねてしまったかもしれない。

(あー……どうしよう)

 思わずため息がこぼれる。
 空が青ければ青いほどに気分が塞ぎ込んでいく。

 校則で禁止されているけれど、こうなったら内緒でバイトでもするしかないかもしれない。
 そんなことを考えながら歩き出したときだった。

 校舎の陰の方に向かう、ふたつの人影を認める。

「速見くん?」

 一方は彼、もう一方は見知らぬ女子生徒だった。
 彼女が先導して連れ立っているところからして、もしや告白?
 ほかのクラス、もしくはほかの学年の女子からもモテるんだ。
 納得と言えば納得だけれど。

「うわー、青春だね」

 唐突に降ってきた声に驚いて、びくりと肩が跳ねた。
 いつの間にかそばに立っていた辻くんが、先ほどまでふたりのいたところを眺めている。