「ありがと、そうするね。一花にも言っとく」
笑顔を貼りつけて受け取ると、同じくうわべだけ愛想よく笑っている亜里沙に背を向けた。
強引に持ち上げていた頬の筋肉から力を抜く。
教室を通り過ぎ、淡々とした足取りで自販機のあるひらけた空間へ向かった。
一歩ごとに心が冷めていく感覚がする。
自販機横のごみ箱に、もらったペットボトルを2本とも突っ込んだ。
(……やるわけないじゃん)
それにしても、先ほどの亜里沙はひどく滑稽だった。
気に入られたいがために笑顔を振りまき、尻尾を振り、もので釣ろうとして、とにかく必死。
わたしも、一花たちの目にはあんなふうに映っているんだろうか。
そう考えるとあまりに虚しくて嫌気がさす。
(……ちがう。わたしはちがう)
彼女たちに必要とされているんだから。
言い聞かせるようにかぶりを振る。
いまが一番、Otoに近い。
クラスの中心的なグループに属して、休み時間のたびにおしゃべりして、放課後にはみんなで遊びにいって────ほら、やっぱり。
言葉にしてみるとすごくきらきらしている。
満たされていないわけがない。それなのに。
『楽しい?』
……楽しくない。
全然、楽しくないよ。
何でなの?
わたし、こんなに必死に頑張ってるのに。
「あ、やっと戻ってきた」
「乙葉、遅ーい」
慣れてくると、だんだん彼女たちの迎え方が手厚くなってきた。
「ごめんごめん、今日めっちゃ混んでて」
買ってきたパンや飲みものをいつもの要領でそれぞれに配っていく。
もはや“ありがとう”すら返ってこないほど、わたしが彼女たちの分を買ってきてやることが当たり前と化していた。
一花が呆れたように腕を組む。
「まったくとろいんだから。これじゃいいとこなしだね」
「本当、うちらが友だちでよかったねー。引き入れてくれた一花に感謝しなよ?」
────それでも、わたしは笑う。
空気を読んで、ばかを装って、自分に課せられた役割を全うする。
そうしているうちに、ここで“気の利くいじられ役”というポジションが確立した。
まったく楽じゃない。
いま欲しいのは、きつい冗談にいちいち振り回されない強靭な心臓。
慣れれば平気になっていくんだろう、たぶん。
「…………」
ここ数日でたちまち軽くなった財布を両手で握り締める。
貴族たちのおつかいに向かうたび、財布を開くたび、頭によぎる言葉。
“パシリ”。
それを否定したくて、曖昧な笑みを浮かべたまま「あのさ」と切り出す。
「その、いままでのお金とか、って……」


