沈黙を肯定と受け取ったようで、彼は苦笑を滲ませつつ肩をすくめる。
“やっぱり”と言う割にどこか意外そうだった。
「なに言われたか分かんないけど気にしなくていいよ。あいつ、別にそこまで深く考えて喋ってるわけじゃねーし」
「……そうなの?」
「そう、割と適当なこと言ってる。まあ悪気はないと思うから、乙葉に対しては。だから今回は目瞑ってやって」
さすがは親友同士だけあって解像度が高い。
純粋に羨ましかった。
お互いを理解し合い、尊重し合う、健全な関係性。
わたしがどんなに望んでも手にできないのに、速見くんはやっぱり何でも持っている。恵まれている。
「でもさ、最近ちょっと心配なんだよね」
「何が?」
「乙葉」
わたし?
いつの間にか、辻くんの顔から笑みが消えている。
「この前も似たようなことあったじゃん。ほら、移動教室のとき。千紘と話してた乙葉、何か今日とおんなじ顔してた気がする」
図らずも瞳が揺らぐ。
無自覚のうちによっぽど余裕を失っていたみたいだ。
「もしかしたら、あいつが何かひどいこと言って傷つけたんじゃないかって。勘違いだったらごめんけど」
「ううん、大丈夫。そういうわけじゃないよ」
傷つけられたわけじゃなく、ただ勝手に追い詰められていただけだ。
脆い心が折れないよう、誤魔化し続けることでぎりぎり守っていたのに、見たくないところに無理やり目を向けさせようとしてくるから。
「あのときはただ……ショックだったっていうか、腹が立ったっていうか」
「何で?」
「何も知らないくせに、わたしのこと分かるわけないのに、正しいことばっかり言うから」
正論じゃ誰も救われないんだってことを、綺麗な彼は知らないんだろう。
否定された経験がないから、嫌われないために自分を偽ることを“悪”だとでも思っているにちがいない。
だから、わたしのことなんて絶対に理解できない。
「……あ、ごめん。何でこんなこと辻くんに話してるんだろう」
「本当に“正しいこと”だったの?」
苦く笑ったものの、彼の鋭い声に両断される。
「え」
「それってさ、あいつに言われたからそう思わされてるだけなんじゃない?」
「速見くんに言われたから……?」
「うん、みんな神格化してるだろ。陽キャで人当たりよくていいやつで発言力がある千紘は、みんなに好かれてるA組のキングじゃん」
キング。
辻くんがわたしと同じ感じ方をしているなんて意外だった。
決して嫌な言い方ではなかったけれど、いつになく真面目な顔をしているからか穏やかじゃない空気感が立ち込める。


