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 体操服とシューズを()げ、一花たちと廊下を歩いていく。
 先頭に一花と小夏が並び、その後ろを真穂と紗雪。
 間に割り込むのも横に並ぶのもはばかられるから、わたしは仕方なく一番後ろをついていった。
 あはは、という笑い声が階段の踊り場で反響する。

「昨日めっちゃ面白かったんだけど! 大げさなものまねで歌ってる乙葉の動画、SNS上げていい?」

「だめだめ、恥ずかしいから」

「じゃあ全校生徒に向けて校内放送でやってよ。絶対ウケるんだけど」

 腕を組みながら一花が言う。
 冗談なんだか本気なんだか微妙なラインのいじりだった。

「勘弁してよー! 次行くまでにレパートリー増やしとくから」

 何となく彼女たちならただの冗談で済まさないような気もして、大げさなリアクションで笑って流した。
 空気を壊さないまま、わたしの印象も落とさないまま、乗り切る有効な手段だと気づく。

「マジで? あんた、本当最高」

「分かってるねー。何か乙葉って、言ったら何でもやりそう」

 遠慮のないもの言いだったけれど、すなわちそれが需要(じゅよう)ということなんだろう。

「やるよー。わたしは一花たち貴族の召使いみたいなもんだからね」

「あは、それめっちゃその通りかも。あたしたちといても何となく浮いてるもんね」

「忠実な下僕(しもべ)みたいな?」

 そう続けた小夏と真穂の言葉で笑いが生まれる。
 一花も愉快そうに笑みを浮かべているのを見て、わたしはまたオーバーに笑ってみせた。

(これこそ冗談なのか本気なのか分かんないな)

 ぐさりと胸の真ん中あたりを(えぐ)られる。
 愛のあるいじりというものかもしれない。
 一緒に遊んだことで最初より仲良くなったから。

 いちいち傷ついたり腹を立てたりするのは、空気の読めない反応でしかない。
 分かってない、と呆れられて幻滅(げんめつ)されかねない。
 冗談であれ本気であれいじりであれ、面白おかしいリアクションで受け止めるか、大げさに笑って流すのが正解だろう。



「じゃあパスの練習するから、自由にペア組んで始めてー」

 体育教師のひとことで、わっと体育館が騒々しくなる。
 ボールを抱えたまま一花たちの方を振り返るけれど、既にそれぞれふたりずつで固まっていた。

「ごめーん、乙葉。あたしたちで組むから適当に相手探して」

「何ならぼっちで壁当てしてもいいよ」

 一花のひとことに甲高い笑い声が上がる。
 わたしも笑って返したかったのに、頬が引きつって言うことを聞かない。