「本当? ありがとう……」

「なに言ってんの、当たり前だよ。うちら友だちでしょ」

 そのひとことに心が揺れた。
 このままじゃ孤立まっしぐらだし、正直考えるまでもない。

 “怖い”んじゃなかった。
 思ってしまったのだ。
 ここで一花が声をかけてくれたことは、亜里沙たちへのあてつけみたいになっていい気味だと。
 わたしの存在価値を認められた気がして嬉しかった。

「ねぇ、何かないの? 面白い話」

 とんでもなく雑な振りだけれど、何を聞きたがっているのかは察しがつく。

「んー、じゃあ……杏の話でも聞く?」

「なになに?」

「あの子って見かけによらずマジで性格悪いんだよ。亜里沙なんか目じゃないくらい。したたかって言うか計算高くて────」

 あることないこと交えながら、亜里沙の話をしたときのように毒を吐いた。
 醜く口元を歪ませながら、本人に聞こえるか聞こえないか程度のボリュームで囁き合う。

 実際、杏にしてやられた身としてはその恨みが乗って余計に熱が込もった。
 それに今回は引き際を(わきま)える必要もない。
 既に(たもと)を分かった相手に気を遣うより、いかに一花たちの機嫌を取るかの方が大事だった。

「えー、亜里沙の彼氏利用してまであんたのこと陥れたんだ? やばすぎでしょ。よくいままで一緒に過ごせたね」

「てかやっぱ面白いわ、乙葉。いい子に見せかけて超腹黒いの最高」

 確かな手応えに陶然(とうぜん)としながら笑い返した。
 やった。
 亜里沙や杏に選ばれるより、クイーンに気に入られる方がよっぽど有意義だ。
 杏に勝った。彼女たちより存在価値があるんだ。

(……でも)

 一度、はしごを外されたお陰で頭は()えていた。
 やっぱり“何で”という違和感は残る。

 女子は排他(はいた)的な生きもの。その前提を忘れたわけじゃない。
 一度群れから追い出された羊を易々(やすやす)と受け入れるなんて、何か思惑がなければおかしい。
 特に一花のような利己的な人間が、他人に対する思いやりを持っているとは思えない。

 一花の狙いは何だろう?
 よっぽど亜里沙を(うと)んじていて、最終的には彼女を孤立させたいのだろうか。
 それとも、まさかわたしに対して罪悪感でも感じている?
 わたしと亜里沙たちの関係にひびが入ったのは、そして割れてしまったのは、一花が元凶(げんきょう)と言えばそうだから。
 決定打はあの写真だとしても。

(まさかね。……まあ、何でもいっか)

 平民から抜け出せば勝ち組なんだ。
 この好機は逃せない。
 鈍感なふりをして、クイーンのご機嫌取りに徹すれば安泰だろう。

 危惧した状況はぜんぶ杞憂(きゆう)に終わる。
 Otoに託した理想だって、当たり前の日常になるかもしれない。