箸も重いし、何の味もしない。喉に詰まる。
何度も水で流し込むようにして無理やり胃に入れていた。
(明日からは人目がないところで食べよう、絶対)
そう心に決めたとき、苦々しい記憶が表面に浮かび上がってくる。
気づけば、あれだけ忌避していた中3のときとまったく同じ状況に置かれていた。
いや、ちがう。
今回はわたしに非があって、身から出た錆というものだ。
安直な行動を取って、そして口を滑らせ自滅しただけ。
原因が分かるだけまだ受け入れられる、というか諦めのつく余地がある。
とにもかくにも、ひとまず幸いなのは、速見くんがまだ口をつぐんでいること。
そしていま彼が教室にいないことだ。
ただ、速見くんに見られていると思うと、もう何か投稿する気にはなれなかった。
虚構を上塗りしても痛いし虚しいだけ。
(笑われるだけだろうし)
理解されたいとは思わない。
ただ、もう放っておいて欲しい。
憂鬱な気分になりながら、箸で唐揚げをつまみ上げたそのとき。
「乙葉!」
ひときわ明るい声が降ってきて反射的に顔を上げる。
そこには、一花とその取り巻きの姿があった。
「よかったら、あたしたちと一緒に食べようよ」
「え……?」
何を言われたのか即座に理解できず、呆気に取られてしまう。
まったく予想外の展開だった。……何で?
驚いたことに、わたしだけじゃなく教室内が水を打ったように静まり返っていた。
それで思い至る。
みんな興味のないふりをしながら、急にひとりで過ごすようになったわたしを視界の端に入れて窺っていたんだろう。
窺っていたのは、一花たち1軍さまの動向の方かもしれないけれど。
「それとも、乙葉はひとりでいるのが好き?」
「あ、ううん! そんなことは絶対ない!」
ほとんど条件反射のようにかぶりを振っていた。
一花たちは満足気に笑みをたたえ、それぞれわたしの机のそばに椅子を引っ張ってくる。
「よかった。こないだちょっと話して面白かったからさ、もっと話してみたいなと思って」
購買で買ったパンの袋を破りながら一花が言う。
まさかそう来るとは思わず、困惑状態のままフリーズしていた。
「そうそう、あのときはめっちゃウケた。やっぱ人間、正直が一番だよね」
「無理して人に合わせてるとストレス半端ないっしょ? 乙葉って大人しそうだから余計溜め込んでそうー」
「何かあったら言ってよ? うちら、愚痴でも悪口でも何でも聞くし」
取り巻きたち、もとい小夏、真穂、紗雪が続いた。
今度はそんなふうに煽ってわたしから失言を引き出したいのだろうか。
何のために、と一応考えを巡らせてみるけれど、そもそも選択肢なんてなかった。
空気を読んで従わないとあとが怖い。


