速見くんをこんなに忌々しいと思ったのは初めてだ。
悪気のない気遣いほどたちの悪いものはない。
鈍いというか、本当にばかなんじゃないだろうか。
女子同士の暗黙の了解をまるで分かっていないし、そもそもあの投稿でわたしが一緒に遊びたがっているように見えるなんて。
それとも、本当はぜんぶ分かっていて腹の底で笑っているんだろうか。
きらきらした彼らを羨みながら、劣等感ばかり肥やすこの哀れな凡人を。
「天沢……?」
「ぜんぶ余計なお世話だから」
精一杯睨みつけると、きびすを返して足早に校門へ向かう。
かき乱された感情が、ぐちゃぐちゃに煮えたぎっては波立った。
彼は崇高な天使でアンドロイドだから分からないんだ。
ひとの気持ちが。人間の痛みや苦しみが。
「最悪」
鞄を放ると、着替えもせず自室の机にうなだれる。
ここまでどうやって帰ってきたのか、何も覚えていないくらい衝撃が尾を引いていた。
速見くんは、本当は面白がっているのかもしれない。
時間が経つにつれてそんな思いが強まっていく。
自分とはほど遠い底辺の人間の生き様。必死に右往左往する姿。
もしかしたら、わたしのアカウントのことを仲間内で言いふらして笑い合うつもりかも。
あんなの、ああいうきらきらした人種にとっては滑稽以外の何ものでもないだろう。
格好の笑い種だ。
「ああ、もう……!」
色々と狂った。
安泰だったはずの日常が、崩壊した。
速見くんのせいで。杏のせいで。亜里沙のせいで。一花のせいで。
……いや、この状況を招いたのは紛れもなく自分自身だ。
そうと分かっていても誰かのせいにしないと押し潰されそうだった。
これからどうすればいいんだろう。
途方に暮れては、後悔やら悔しさやら恥ずかしさやら、いろんな感情がぶり返して心を砕いてくる。
(もう嫌だ)
いっそのこと、みんな消えちゃえばいいのに。
ぜんぶぜんぶ、壊れてしまえ。


