この中なら中心にいるのは間違いなく亜里沙だ。
堂々と肝が据わっていて、派手すぎないけれど垢抜けた見た目をしている。
そんな彼女にくっついていれば、少なくとも地味なグループ、いわゆるスクールカーストで言うところの3軍に見られることはない。
だから、杏はその親友というポジションを死守したいのだと思う。
(わたしだって好きで一緒にいるわけじゃないけど)
たまたま席が近くて、たまたま初日に亜里沙と会話を交わし、それから何となくつるむようになっただけ。
居心地が悪くても、もういまさら手遅れだ。
ようやくそれぞれが立場や居場所を固めたこの段階で、わざわざあえてわたしと行動しようと思う人なんていない。
彼女たちから離れるということは、わたしがひとりぼっちになることを意味する。
そんな惨めな展開だけは、絶対に嫌だ。
だから、わたしは今日も自分を殺す。
殺して、笑う。
あはは、と何やら杏の言葉に亜里沙が笑い声を上げたことで再び我に返った。
何の話をしてたっけ。
わたしもとっさに笑みを貼りつけたとき、ふいに背後から声が降ってきた。
「これ、あれじゃない? こないだのライブ」
伏せられていた亜里沙のスマホケースもといそこに入れられているプリクラを指したのは、辻くんだった。
そこには、そのライブのグッズであるタオルを広げる亜里沙と杏が写っている。
「え、そう! 拓海も好きなの? あのアーティスト」
「ライブは行ったことないけどよく聴いてる。最近いろんなとこで流れてるよな」
「そうなんだよ。でも、わたしたちはここまで有名になる前からずっと推してたの」
「うわ、古参アピ?」
杏の言葉に彼が笑う。
辻くんは明るくてノリがいい、典型的なムードメーカータイプ。
おどけた自己紹介がウケて自ずとクラスの中心人物になっていた。
ここに属していれば、そんな彼からも声をかけてもらえるわけだ。
それだけでクラス内での地位が盤石になる。
窮屈さをこらえて留まるだけのメリットはある。
(てか“わたしたち”って……当たり前のようにわたしのことは無視じゃん)
中学の頃から。前から。前から。前から。
杏は何かとわたしがいなかったときのことを引き合いに出す。
最近は当初よりもだんだん露骨になってきた。
わたしはそのアーティスト名すらうろ覚えなほど興味ないし、ふたりがライブに行った話もあとから聞いて知った。
目の前で繰り広げられる会話についていけず、ただ黙って笑みを浮かべていると、ふいに辻くんが「あれ」と声を上げる。
「乙葉はちがうの?」


