何となくじっと見つめていると、じわじわと後悔が根を張り始める。
失敗した。
彼女の作り出した“空気”に踊らされて間違えた。
あんなこと、乗せられても言うんじゃなかった。
女子同士でうまくやるコツは分かっていたはずなのに。
悪口は自ら主導するべきじゃないと心得ていたはずなのに。
そもそもストレスの自制も効かないなんて。
けれど、乗らなきゃきっとわたしにあの蔑みの眼差しと冷たい言葉が向けられていただろう。
ノリ悪い、とまた白けさせてしまったかもしれない。
止めるのはありえないし、たしなめるなんてもっと論外。
(じゃあ、どうすればよかった?)
わたしには手に負えない。
Otoならどうしていただろう、とスマホに目を落とした。
考えるだけ無駄だ。
Otoならそもそもあんな状況にはならないし、いまだってあの輪の中心にいることだろう。
みんなに必要とされ、きらきら笑っているにちがいない。
“休み時間に友だちと。いましかない、こういうのも青春って感じで楽しい”
適当なトランプの拾い画を加工し、投稿画面にそんな文章を打ち込んだ。
公開範囲を“すべて”に設定して投稿する。
反応はあとでゆっくり確認するとしてスマホを伏せた。
(“青春”って何だ)
自分で打っておいて、何だか急に興ざめしてきた。
そんな実体のない幻想を、いつから誰に強いられていたんだろう。
輝くのが義務なんて、あまりにも無理難題。
どうりで苦しいわけだ。
わたしたちには“青春”という高い高い値札が貼られているんだから。
大人による理想と後悔が投影された結果、どんどん値上がりしている。
だから等身大が否定され、輝いていないと“もったいない”と後ろ指をさされる。
いましかないのは、誰だって同じなのに。
ふと、視線を感じて顔を上げた。
速見くんと目が合う。
ばば抜きの決着がついたのか、いつの間にか輪から少し離れていた彼が、なぜかじっとこちらを見据えていた。
(また、余計な心配されてる?)
わたしがひとりでいるから。
内心、勝手にむっとしながら目を逸らすとそのまま机に突っ伏した。
寝たふりでもして時間を潰すことにする。
ひとりでいると、自由な時間って長く感じる。
視界をシャットアウトしても、物音や話し声のひとつひとつが内容によらず耳に障った。
それでも、寝ていればひとりでいることの理由づけになることに気がつく。
誰にも憐れまれたりしないで済むなら、これから教室にいるときはこうしていようかな。


