“嘘乙ww”
“盛りすぎww いまどきこんなキャラ設定流行らんだろ”
“リアルが虚しいからって何か可哀想”
目についたアンチ的なコメントは、手当り次第に削除していった。
うっとうしい。
邪魔しないで。
ここだけがわたしの世界なんだから。理想郷なんだから。
(消えろ。消えろ、消えろ……)
無心で削除とブロックを繰り返していると、唐突に破裂音が響いてきて我に返った。
はっとして教室内を見回す。
真ん中あたりに固まっている人たちが目に留まった。
破裂音ではなく、彼ら彼女らの騒ぐ声だったみたいだ。
「また拓海の負けー! 毎回ジョーカー持ちすぎなんだよ」
「最弱王決まったね」
どうやら一花や辻くんたちがトランプで遊んでいるらしい。
その中には速見くんの姿もあったけれど、ばか騒ぎには加わらないで笑っている。
(ばば抜きか……)
いまのわたしは間違いなくジョーカーと言えた。
不要な存在であり余りもの。空回りした道化師。
その点、クラスの“キング”は速見くんで“クイーン”は一花だろうな。
「うっさいな。おまえら、ジョーカーの意味知ってんの?」
「意味? 何それ」
それを受けた辻くんは、ジョーカーのカードを高らかに掲げる。
「最強の切り札。由来は昔の宮廷道化師なんだって。民が言えないような、王さまとか貴族に対する批判も言ってたらしい。要は無敵ってこと!」
そうなんだ、と勝手に腑に落ちた。
たいていジョーカーの絵柄が怖いのは、王や貴族が内心恐れていたからなんだろうか。
「へぇー。ま、でもばば抜きは例外でしょ?」
「く……。くそ、もう1回やろうぜ!」
反論を失った辻くんが、墓場と化したカードの山にジョーカーを投げる。
「もう1回やるのはいいけど、ちょっと騒ぎすぎ。もっとおしとやかにやろうよ」
トランプをシャッフルしながら、おもむろに速見くんが呼びかけた。
「おしとやかってどんな感じよ」
「あー分かった、お上品にな。ちゃんと座って集中するわ」
そう言った辻くんが机から椅子に座り直すと、一花の取り巻きが「意味あるー?」と笑う。
楽しそうな空気を壊すことなく、周囲に気を配ってたしなめてみせた速見くんに素直に感心してしまった。
わたしならたぶん怖くて言えない。
自分たちの空気さえ守れれば、周りが迷惑していたって見て見ぬふりをしてしまう。
こういうところが格のちがいだろう。
ふと、一花に目をやった。
今日もまた速見くんの横を陣取り、輪の中で笑顔を弾けさせている。
亜里沙を悪く言っていたときの歪んだ笑みとはまた全然ちがっていた。


