「ちがうの! ご、ごめん。わたし……」

「何なの? これ」

 一花たちと陰口を叩き合ったことを、手遅れでも謝ろうとしたものの出鼻(でばな)(くじ)かれた。
 突きつけられたスマホの画面には、1枚の写真が表示されている。

「え……?」

 そこに写っているのはわたしと吉木くん。
 裏庭で話しているところをどこかから盗撮されたみたいだった。

「どういうこと? 何で一緒にいるの? こんな、わざわざ裏庭なんかでこそこそ何してたわけ?」

「ちょ、ちょっと待って。ちがう、これはそういうんじゃなくて……」

 焦るほど頭が真っ白になる。
 本当に疑われるようなことは一切なかったんだから、焦る必要なんてないのに。
 誤解を生まないように黙っていたことが完全に裏目に出た。

 どこから、何をどう話せばいいだろう。
 あまりの動揺で言葉を詰まらせていると、ひときわ冷徹に杏が口を開く。

「……もういいよ。行こ、亜里沙」

 はっと息をのんだ。
 去り際の冷ややかな眼差しと遠ざかっていくふたりの背中を見て、ようやく思い至る。

(杏だ)

 あの捨てアカの持ち主。
 ダイレクトメッセージで呼び出してわたしと吉木くんを突き合わせたのは、杏だったんだ。
 わたしが彼と一緒にいるところを写真におさめて、亜里沙に何て吹き込んだんだろう。
 考えるまでもない。

(()められた……)

 杏は思っていた以上に狡猾な人間だったわけだ。
 もしかすると、杏が早退したときやそのあとの当てつけ的なわたしの態度が余計に彼女の反感を煽ったのかもしれない。
 ある意味、自業自得なのか。

 いまさら亜里沙の誤解を解こうなんて気力は湧いてこなかった。
 さっきのように聞く耳も持ってくれないだろう。
 往生際悪く執着するだけ無駄。
 終わったのだと諦めるしかない。わたしは見事、潰された。

 その後ろ姿が見えなくなっても、しばらく愕然としたまま動けなかった。



 教室に戻ると、遠目から亜里沙たちの射るような視線を感じた。
 気づかないふり、というか気にしていないふりをして自分の席につく。

 SNSでOtoのアカウントを開き、適当にコメントを眺めた。
 ささくれ立つ心を落ち着かせるには、盲目的に肯定して羨んでくれる都合のいい言葉が必要だった。
 すり切れた自尊心を守るために。

 “Otoちゃん、本当にかわいい……。もう本当にずっと憧れです”

 会ったこともないのに、雰囲気だけでそこまで好きになれるものなんだろうか。
 でも、いまは純粋に嬉しかった。
 会ったことがないからこそ好いてもらえるんだろう。
 ありのままのわたしと対面したら、確実に幻滅(げんめつ)される。