かちゃ、と素早く鍵をかけると、扉に背を預けるようにして立つ。
タイル張りの床を見つめながら、じわじわと嫌な汗が滲むのを感じていた。
(……終わった)
授業が終わると同時に亜里沙たちに歩み寄ろうとしたものの、その前に心が砕けた。
わたしの存在など一切忘れたかのように、ふたり仲良く先に教室へ戻っていってしまったからだ。
しかも、それでいて時折こちらを振り返ってはこそこそと何かを囁き合うおまけつき。
耐えきれなくなって、一旦トイレの個室に逃げ込んできたところだった。
希望的観測も楽観視もできなくなり、いい加減に確信した。
一花に便乗して亜里沙を悪く言ったのをやっぱり聞かれていたか、もしくは杏が裏切って密告した。
亜里沙の態度を思うにきっと後者だ。
彼女らは3人組からふたり組になれば安泰だし、もともとわたしと杏は水面下で睨み合っているような状態だった。
わたしを蹴落とすにはこれ以上ないチャンスだったにちがいない。
したたかな杏はあのとき、最低限の同調以外は口をつぐんでいた。
こんなふうに足をすくわれないように。
(マジで最悪。やられた)
どうしよう、とうなだれる。
ここまでうまくやってきたつもりだったのに。
ひとりにだけはなりたくなかった。
だけど、だからっていまさら謝る? わたしが?
わたしだけが悪いわけじゃないはずなのに。
そんなふうに必死でふたりに縋るのはみっともないし情けない────というか、何でわたしが。
発端の一花は変わらず大きい顔をしており、狡猾にも出し抜いた杏は、わたしという悪者を作り出すことで亜里沙との結託を強めた。
その結果、わたしだけが敗者。ひとりぼっち。
それぞれが天秤にかけて判断したんだ。
それでも許して受容するような価値は、わたしにはないって。
あまりに腹が立って、てのひらに爪が食い込むほど強く拳を握り締めていた。
悔しい。虚しい。
杏よりも、自分自身が許せなかった。
教室へ戻る途中、廊下の角を曲がった瞬間、何かにぶつかった。
「……っ」
驚いて顔を上げると、亜里沙と杏が仁王立ちしている。
「あ、亜里沙。杏……?」
もしかすると、やっぱりぜんぶ思いちがいだったのかもしれない。
なんて期待はすぐに打ち砕かれる。
ふたりの表情は不興そのもので、特に亜里沙は苛立ちを前面に押し出していた。
「裏切り者」
底冷えするような声色。
心臓が縮み上がる。


