いつもより増した杏の露骨さも、明らかな亜里沙の態度変化も、わたしに向ける目もちがう。
心当たりがあるだけに尚さら確信へと近づいていた。
それでもどうか気のせいであることを願い、空気と化してただ愛想笑いを貼りつけ続けた。
引きつった頬がこれほど重く感じるのは初めてだった。
1時間目の情報の授業は、コンピューター室へ移動となっている。
教科書やペンケースを抱え、ひとまず亜里沙たちのところへ寄ろうとした。
けれど、ふたりはわたしを待つことなく先に教室から出ていってしまう。
「え……」
朝はそっけなかったとはいえ、挨拶もしてくれたし返事もしてくれていた。
それなのに、急に無視された。
慌てて追いついてみたところで、また朝のように微妙な空気になるのは目に見えている。
一旦諦め、ひとりで廊下を歩くわたしの横をクラスメートたちが過ぎていく。
あるいは取り留めもない雑談が後方から聞こえてくる。
図らずも腕に力が込もった。
……なんて心細いんだろう。
だけど、萎縮しないように背筋だけは伸ばし続けた。
ここでうつむいてとぼとぼ歩いていたら、それこそ惨め以外の何ものでもない。
わたしはひとりぼっちじゃない。
いまに限ってたまたまひとりでいるだけ────誰に対してか分からないアピールを、心の中で唱え続ける。
「天沢」
ふいに声をかけられ、びくりと肩が跳ねる。
反射的に振り向くと、速見くんが立っていた。
「ごめん。古典のノート、まだ写し終わってなくてさ。これ以上は申し訳ないから写真だけ撮って返すんでもいい?」
何かと思えばそんなことか。
自分でも何を期待したのか、あるいは身構えたのか分からないけれど肩の力が抜ける。
「大丈夫。授業のときだけ返してもらえればいいから」
やわく笑いながら、昨日言いそびれたことを口にする。
速見くんは眉を下げた。
「いいの? 本当ごめん、ありがと」
そう言って微笑んだかと思うと、きょろきょろとあたりを見回す。
「あれ、いつものふたりは?」
「あ、あの……トイレ寄ってたらわたしだけ遅れちゃって」
まさかそんなことを気にかけられるとは思わなくて、内心わずかに動揺しながら嘘をつく。
焦るわたしとは裏腹に、ただ純粋に気になったか適当に話題を振ったかの彼は、当たり前だけど暢気な調子だった。
「そうなんだ。それくらい待っててくれてもいいのにね」
かっ、と自分でも驚くべきことに頬に熱が走った。
何気なくフォローしてくれただけだろうけれど、何となく同情されているように聞こえてしまう。
その程度も顧みてくれない友だちしかいないのか、わたしは彼女たちの中でも立場が弱い存在なんだ────そう思われたんじゃ……?


