(でも……)
気を抜くとまた例の憂慮が頭をもたげてくる。
今度はちがう方向に。
(ああいう悪口がエスカレートして、いじめなんかに発展したらどうしよう)
自分も巻き込まれるだろうか。
……めんどくさい。
せっかく目立たないように、目をつけられないように、平凡に大人しく生きてきたのに。
悪口を言い合う一花たちのあくどい笑みがよぎる。
ああいう自己中な人間の気まぐれに振り回される、こっちの身にもなって欲しい。
どうして無関係な人のことまで蹴落とさないと気が済まないんだろう。
なんて、理由は限られている。
自分たちの立場を誇示するためにほかならない。
1軍という、発言力や影響力の強い人間たちは、クラスメートの生殺与奪の権を握っている。
自分たちが支配者であることを見せつけ、教室を思うがままの城にしたいわけだ。
「……本当、いい迷惑」
こちらは殺伐と空気を読むことを強いられ、精神をすり減らさなければならないというのに。
わたしも陰であんなふうに言われているかもと思うと、誰のことも信用できなくてうんざりする。
心底くだらない。
だけど、この空間では“空気を読む”のが義務だ。唯一の自衛手段。
またしても重いため息をつきながら、自分の席に腰を下ろす。
ほとんど無意識のうちにスマホを取り出し、SNSを開いていた。
(今日も何か投稿しなきゃ)
これ以上、腐敗して自己嫌悪に陥る前に。自分を見失う前に。
でも、どうしよう。何もない。
今日は何だか疲れたしネタ探しにいく気にもなれない。
きらきらしたリア充の“Oto”なら、どんな一日を過ごしていたかな……。
あたりを見回してみてもぴんと来ず、困り果てて鞄を探った。
ペンケースやポーチの隙間から未開封の飲みものが顔を覗かせている。
休み時間に買って結局飲まなかった、パックのミルクティーだ。
「これでいっか」
包むように左手でそっと持ち、手元を写真におさめる。
フィルターや明るさを調整し、投稿画面を開いた。
“色々あって落ち込んでたら彼がくれた。いつも優しくて癒される”
いつもの流れで公開範囲を“すべて”に設定し、写真とともに投稿する。
これまたいつものように、あっという間にいいねとコメントが押し寄せた。
“羨ましすぎる! いいなぁ、わたしの彼にも見習って欲しい”
“自慢の彼氏だね。きっとお似合いなんだろうな”


