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 わたしである必要なんてなかった。
 一緒に購買でパンを買う友だちも、放課後にカフェで喋る相手も。
 ばかみたいだ。
 そうとも知らずに踊らされていたわたしが。

(わたしもマスクしてこればよかった)

 無理にでも口角を上げ続けることが、こんなにしんどかったことはない。
 もう期待しない。
 亜里沙にも、誰にも。



     ◇



 “突然すみません。相談したいことがあります”

 それは本当に突然送られてきたダイレクトメッセージだった。
 SNSのリアアカの方に、捨てアカと思しき無味無臭のアカウントから届いた。

 “今日の放課後、裏庭で待ってます”

 リアアカに送ってきていることや裏庭と指定していることから、同じ学校の誰かだと推測できる。
 いったい誰だろう。

 いたずらだろうと無視しようとも思ったのだけれど、最後の一文がわたしの心を捉えて離さなかった。

 “亜里沙に関することです”

 この時点で知り合いではあるはずだ。
 亜里沙が共通の知人である誰か。
 このタイミングで彼女に関する相談なんて、正直気になって仕方がない。
 文面的にいい予感はしないから。

(行ってみる……?)

 仮にいたずらだったとして、大勢いる校内で白昼堂々何が起こるかなんて知れている。
 この送り主が誰なのか、亜里沙にまつわる相談とは何なのか、その好奇心の方が(まさ)った。



 放課後、亜里沙たちとは教室で別れてすぐに裏庭へと向かう。
 ただでさえひとけのない場所なので、確かに相談とやらにはうってつけかもしれない。
 送り主と思しき相手の姿はまだ見えなかった。

(何なんだろう? 誰かな?)

 強まった疑問と好奇心の答え合わせがもうすぐできる。
 少しどきどきもしていると、ほどなくひとりの人物が現れた。

「あのー、あんたが天沢(あまさわ)さん?」

 遠慮がちに声をかけてきたのは、背の高い男子だった。
 見覚えはない。
 ネクタイの色は青色。わたしのリボンと同じなので同学年だと分かる。
 1年生にしては制服を着崩していたり、若干髪色が明るかったりと何となく不真面目そうな印象を受けた。

「そうですけど……何で、わたしの名前を?」

 当然ながら、SNSには載せていないのに。
 送り主は彼で間違いないはずだけれど、そう尋ねると怪訝(けげん)そうな顔をされた。
 (いぶか)しみたいのはこちらだ。

「……だって、これ」

 彼は少し悩んでから、自身のスマホを差し出してきた。
 ダイレクトメッセージの画面が表示されている。

 “突然すみません。
 A組の天沢乙葉っていいます。
 亜里沙のことでどうしても話したいことがあってDMしました。
 今日の放課後、裏庭で待ってます”