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「保健室行こ。杏、辛かったらわたしに掴まっていいから」

 支えながら立ち上がらせると、珍しく素直に腕を借りてきた。
 よっぽどしんどいみたいだ。
 触れたところがすぐさま熱を帯びていくのが分かる。

「あたしもついてこっか?」

「大丈夫。でもたぶん授業間に合わないから、先生にだけ言っといてもらっていい?」

「おっけー、分かった。慌てないでね」

 こくりと頷き、杏とともに教室を出る。
 普段はぎすぎすしているくせに、誰かが弱っていると優しくなれる気がするのは何でだろう。
 本能的な損得勘定(そんとくかんじょう)だとしたら、ひどく悲しい。

「大丈夫?」

 彼女を気遣ってゆっくり歩いていく。
 杏は答えることなく、伏せたまま呟いた。

「何で乙葉……」

 途中で辛くなったか思い直したか、最後まで言いきらずに濁す。
 それは、何でわたしが気遣ってくれるのか分からないという意味だろうか。
 それとも、何で亜里沙じゃないの、亜里沙がよかった、とでも言いたいんだろうか。

(……何それ、どこまで感じ悪いの)

 いらっとする。
 熱が染み込んでくるせいで尚さら沸点が低くなっているのかもしれない。

「友だちなんだから心配して当然だよ。無理しないで」

 前者だと解釈しておくことにして、穏やかな笑みを貼りつける。
 杏自身のせいで、いましがたわたしの純粋な優しさや慈しみは打算による紛いものに変わった。
 ここで当てつけのように恩を売っておくことにしよう。



 結局、わたしが教室に戻ってからほどなくして杏は早退することになった。
 熱もあるみたいだったし妥当だろう。

 率先して動き、荷物をまとめてやる。
 鞄だけ取りにきた杏に「ゆっくり休んでね」とひとこと添えて見送った。

「ありがとう……」

 その表情が陰鬱(いんうつ)なのは、ただ具合が悪いだけじゃなく不本意ゆえかもしれない。
 ひねくれすぎ?
 いや、あながち間違っていないと思う。

 昼休みになると、亜里沙とともに購買へ向かった。
 分かってはいたもののかなりの人口密度だった。
 遠慮していると何も手にできないで、午後の授業を空腹で過ごす羽目になりそうなくらい。
 だけど、他人を押しのけて奪うほどの図々しさをここで見せるのも気が引ける。

「人やばいね」

 困ったね、と苦笑し合って一旦やり過ごそうかと思ったら、亜里沙がもの怖じすることなく動いた。
 人の隙間に器用に半身ねじ込んで、番重(ばんじゅう)にところ狭しと敷き詰められたパンの中からクリームパンを掴む。
 くるりと振り向いて差し出してきた。

「はい、乙葉はこれでしょ」

「えっ」