8月27日の夜から夢を見なくなった。彼女と実際に会えないばかりでなく、夢の中でさえデートができなくなった。寝る前に毎晩〈夢の神〉に手を合わせたが、願いはまったく聞いてもらえなかった。
 それだけでなく、電車に乗ることも(かな)わなくなった。未来行きも過去行きも現れなくなった。

 そんな状態のまま9月17日になった。眠りが浅い日が続いているので、目が覚めた時に体が重かった。疲れはほとんど取れていないように感じた。

 時計を見た。
 17時だった。
 起きる時間だった。
 なんとか布団を半分に折り畳んだが、顔を洗う気も起きず、布団に頭を乗っけて、テレビのバラエティー番組をボーっと見ていた。でも、お笑い芸人のダジャレが余りにも面白くないのでチャンネルを変えた。すると、政治家の顔が大写しになった画面と共に『菅内閣発足』というテロップが目に入った。そうだった。首相が安倍さんから菅さんに変わったのだ。

 その画面を見ながら変な気持ちになった。ずいぶん前からこのことを知っていたからだ。丁度1か月前に『9月17日駅』行きの電車に乗って、正に今テレビを見ているこの部屋で同じ内容のニュースを見たのだ。
 その時は信じられなくて目を剥いたことを思い出した。しかし、嘘ではなかった。事実だった。紛れもない事実だった。

 そのテロップを見ていると、未来と現実の時間軸がやっと一つになったような気がした。今まではズレたままだったのでなんとなく不快な感じが続いていたが、それが今日解消されて、体が軽くなったような気がした。

 よし! 

 声を出して立ち上がり、顔を洗って、食事の準備を始めた。

 部屋の中が湿気でムンムンしているので、今日もソーメンにした。梅雨明け以来、ほとんどソーメンとざるそばの毎日だが、それ以外に食べる気がしないのでしようがない。栄養の心配があるが、それをおかずの〈黄身納豆〉が補ってくれる。黄身のリン脂質とビタミンやミネラル、納豆のタンパク質と食物繊維と納豆菌、それらの栄養素や機能が体を守ってくれるのだ。そう固く信じているから毎日でも食べ続けられる。信じる者は救われるのだ。