「いいですよ。でも、静芽さんの手は汚さないで」

汗ばむ手を握って、また冷めだした唇を押しあてる。

静芽に苦しい思いをさせた父を忌々しく思い、悔しさに涙がにじむ。

私は静芽の悲しみをやわらげたい。

誰かに頼ってもらえるほどの巫女ではないけれど、人として寄り添えるようになりたかった。

だから目を背けない。
静芽を助けたい。
瀬織に振り向いてほしいから。

「弓巫女は呪われた。それは父が静芽さんのお父様、山神を殺したからですか?」

その問いに静芽は「あぁ」と答えた。

弓巫女が犯した大罪を考えても、口伝が途切れたことしか思いつかない。

ならばなぜ、口伝が途切れたのか。

口伝が途切れる危険を考えていなかったとは思えない。

静芽がわざわざこの話をするには、珊瑚の指輪が関連していると察した。

やはりそうか、と目を閉じると静芽の胸を押してシャキッと顔をあげる。

「だったら弓巫女の筆頭家門として、私が制裁を下します」

「! どうやって……」

「当主を降りていただきます。そして償いをしていただきます。……どうするかは龍神さまに判断をゆだねたいと思います」

目を見開く静芽に、今できる精一杯の強気で笑いかけた。

弓巫女の罪となったならば、筆頭家門の巫女として正式に裁きを下す。

それが私のやるべきことだ。

父の愚かさで瀬織の代まで影響を食らうのはごめんだ。

キライだった父だけど、とことんくそくらえ、だ。

散々瀬織を困らせた後始末、しっかりその身に味わってもらおうとほくそ笑む。

龍神が決めることだろうが、情けを乞う気は一切なかった。
とはいえ、筆頭家門の巫女は私だけじゃない。

「こればかりは瀬織にちゃんと相談します。龍神さまに、と言いましたがどうやってお会いできるかわからないですし」

「ははっ。本当にこれだから困るんだ」

たまらないと静芽はケラケラ笑い出し、おだやかに目を細めて私の頬を撫でる。

「菊里は何をしでかすかわからない。……危なっかしい双子だ」

「! はいっ!」

真実なんてどうでもいい。

私にとって誰が大事で、誰といたいかの方がよっぽど重要だ。

私は瀬織の姉でありたいし、静芽の恋人でありたい。

だったらそれでいいじゃないかと、ようやく安心して笑うことが出来た。