お互いを大切だと言わんばかりの抱擁をする。

「静芽さんは鈴里さまに育てられた。でも本当は母(あやこ)の子いうことですよね?」

甘い気分を味わいたいところだが、現実から逃げる気はない。

今ここでハッキリさせないと先には進めないと、いったん気持ちを取り下げた。

「そうだ。父と、亜矢子さんは愛しあっていた。だが白峰 道頼に殺された」

悔しさにギリッと歯をくいしばる。

静芽が自分を傷つける姿を見たくないと、静芽の唇を手でおおい、首を横に振った。

静芽は肩の力を抜き、私の手を握って眉をさげる。

「白峰の当主が俺を認識しているかはわからない。だが俺が生まれる前に、父は海で殺された。その後、産まれた俺を母が……天野 鈴里が引き取った」

静芽の指が珊瑚の指輪をなぞる。

これを私の指にはめたのは、複雑な理由がありそうだ。

戒めか、期待か、はたまた他の想いがあったのか。

汗ばんだ手が私の手を掴み、切なく消え入りそうな笑みが向けられた。

「結局、母も亡くなった。俺は白峰 道頼が憎かった。だから菊里に出会って、アイツを殺すチャンスかと思ったんだ」

「父を、今も憎んでいますか?」

「……ごめん」

消え入りそうな声で、静芽は謝るだけだった。

(謝らなくていいのに。……私、薄情な娘ね)

親を殺したいという相手を前に、何の動揺もないなんて。

それくらいに私は白峰 道頼という男に興味がなかった。

まわりが私を無能だと毛嫌いするように、私も当主として無能な父がキライだった。

(もう、静芽さんに悲しい想いをさせたくない)

私には母がいた。
瀬織という希望がいた。

静芽には誰かそばにいてくれただろうか?

泣きたくても泣けない子どもが垣間見える姿を、私は受け止めたいと願った。

同時に静芽の苦しさを助けたいと、なんとか手を凶器に変えようとするのを止めたかった。