「いやだ!」

瀬織のことを考えて、歯を食いしばる一言を叫ぶ。

私はこの想いを捨てたくない。

渇望してきた妹の愛情。

それ以上に私が瀬織を愛しているから、簡単にあきらめられる軽い想いではない!

「私は瀬織のお姉ちゃんです! 母は、白峰 亜矢子は私の母です! 私と! 瀬織の! お母さまなんです!!」


真実なんてどうでもいい。

私の想いはゆずれない。

血の繋がりなんかでなく、私が瀬織とどうありたいのか。母に対して何を思うかは私の自由だ!



「そうだ」

静芽が私の額にコツンとおでこを合わせてくる。

やさしい眼差しと、憂いの多い声に私はうすらと口を開いて見つめ返す。

「それでいい。菊里は自由だ。そばにいたい人のところにいればいい。……俺はそんな菊里が好きだ」

ハッと静芽を見れば、夜に冷えた唇が落ちてくる。

冷たさからの熱、すぐに離れたが、視線が重なってまた重なった。


「ん……」

ほんの少しの息苦しさと、喉のひりつき。

胸が塞がったような感覚と、それを上回る頬の熱さ。

離れると紅玉の瞳が夜に揺れて、赤く火照った私が映されていた。


「不安だった。好きになっていいのか。だけど放っておけなかった」

「ん……。なってくれなきゃやだ」

「……そういうところ」

月明かりは私の恥じらいを隠してはくれない。

静芽の情熱的な眼差しもよく見えて、私の心はあっさり奪われた。

あまりに短すぎると押し殺していたのに、触れてしまえばあっさりと落とされる。

これは、紛れもなく恋だ。

「別に妹でもよかった。……正直、ホッとした」

肩に額を押しつけられ、長い息が苦笑交じりに吐かれる。

「静芽さんが兄とか、思いたくないです」

「それはそれで複雑なんだけど」

冗談を言えるくらいには心がやわらいで、私たちは額を合わせて笑った。