「教えてください。私たちが……弓巫女が何を犯したのか」

この覚悟は瀬織が知る必要はない。
月の下で、私が静芽に宣言するためのもの。

静芽は私の腫れぼったくなった目元を擦り、静かな声で覚悟に応えてくれた。


「父は殺されたんだ。……白峰家の当主に殺された」

頬に触れたままの指先が跳ねる。

月を見上げ、青白い顔をしてうすらと笑っていた。

(そっか。……そうだったんだ)

静芽が瀬織のことを口にする時点で、何かしら弓巫女と因縁があるのは想像できた。

意外とショックを受けることなく、静芽の襟元を握りしめる。

「父は天狗。俺は刀巫女の天野 鈴里に育てられた。以前の天野家当主だ」

名前は聞いたことがある、と顔を知らない刀巫女を想像する。

当時活躍した巫女のなかで、弓巫女の母・亜矢子と並ぶ強い巫女だったらしい。

(子どものとき、ちゃんと聞いてなかったな。お母さまの友だちだって、言ってたなぁ)

二人はとても仲が良かったらしく、いつか私に紹介したいと母が笑って語っていたのを思い出す。

とてもやさしい目をしていた。

「今までずっと、俺の母は天野 鈴里だと思ってた。……だが違ったようだ」

静芽の息を呑む発言に身が強張る。

違う、と言う流れがわからずに首を傾げてみれば、静芽はさみしげな子どもの顔をしてささやいた。


「俺の本当の母親は白峰 亜矢子。菊里たちの母親だ」

「……えっ?」



言葉が耳から流れ出ていく。

頭の中に残らず、背伸びをしてまばたきを繰り返していると、静芽が感傷的に微笑んだ。

それを見て、言葉が私のなかに浮かんできた。

「本当の母親って……。だって私の……」

混乱して、しどろもどろになって言葉を詰まらせる。

私と瀬織の母で、静芽の――?

「それって、静芽さんは私の――」

「違うっ!!」