「なぜ、妹が菊里をそこまで毛嫌いするかわからなかった」

「それは能無し巫女だったからで……」

「違う。あれは遠ざける行為だ。ただ距離をとるためだけの最善だ」

それは今までの認識を覆す。
――瀬織に嫌われている。

何においても前提であり、そこからどう這いあがるかという視点しかなかった。

思わぬ方向からの衝撃に受け身がとれずにいる。

「菊里に何も知らないまま、平穏に生きてほしかった。それが妹の本音だ」

「えっと……ごめんなさい。頭が……追いつかない」

そんなのはただの都合のいい解釈だ。

瀬織に嫌われてないと、自分を甘やかせるための理由づけにしかならない。

むき出しの嫌悪が、侮蔑する言葉が、過剰なまでの嫌がらせは……。

(私に何も気づかせないまま追い出すための全力……?)

もしそうだとしたら私はどれだけ罪深いのだろう。

それこそ瀬織にすべてを背負わせた愚か者だ。

“瀬織を愛している自分”を愛していただけの、悲しみの美酒に酔った”下劣な姉”。

「どうしてそう思ったんですか?」

背中を伝う汗がキモチワルイ。

静芽の顔を見られないまま、欠けたピースを埋めようと声が焦るばかり。

「妹は当主になって弓巫女を立て直すと言った」

「それは……ずっと昔から言っていることです。今の弓巫女はずさんな状況で……」

「ただずさんなだけか。それとも”弓巫女が衰退している”と考えるか」

「衰退って……」

たしかに口伝は途切れ、弓巫女の数も減っている。

衰退といえば衰退だが、そもそも父が真っ当な当主として動けていないから。

口伝が途切れるような事態になっているから。