強さを得たのは錯覚だった?

いつまで経っても無力から脱却できない。

瀬織のとなりに立てるのはいつになる?

危険が迫れば守れるの?

ずっと拒絶されてきたが、今日ほど明確に切り離されたことはない。
ゆっくりと線を引き、チリッとした痛みが長引く拒絶だった。

瀬織の描く未来に、白峰家の当主を支える私はいない。

ただ私を切り捨てる。
私の心は荒れ模様。
さめざめと涙が溢れて視界がにじんだ。

「私、弱いですね。強くなりたいくせに泣いてばかり。こうして静芽さんの前で泣くなんてすごく恥ずかしいんです」

月が揺れ、白銀の粒をまとう静芽がまぶしい。

「き……」

「嫌なんです。私、弱くなった。静芽さんがいないと立てないんです。瀬織との距離がどんどん変わって……」

長年、変わることのなかった距離感。

それに慣れて、変化しないことに安堵していたのかもしれない。

静芽と出会って新しい道が開き、急速に物事が進んだ。

瀬織が見せる厳しさも変わり、拒絶の中に悲哀を感じるようになった。

受け止め方に迷いがある私は、こうして静芽に八つ当たりをするしかない。

女の匂いを漂わせて、心底胸くそ悪い自分に吐き気がした。

(静芽さんへの気持ち、口にしたくない。戻れなくなる)

瀬織への愛以外、知らない私には戻れない。

「――――」

爽やかなやさしい香りが私を包み込む。
白銀の髪が頬をくすぐって、少し早くなった心臓の音が聞こえる距離になった。

「動くというときは案外一瞬なんだ」

「静芽さん?」

表情が見えなくても、声が震えているので緊張が伝わってくる。

きっとこのタイミングで顔をあげ、外の空気に冷えた静芽の頬を包むのが正解だろう。

その勇気が今の私にはなく、少し早い鼓動に耳をあてて目を閉じる。

「俺の父は亡くなっている。海で亡くなったと話しただろう?」
「はい……」

珊瑚の指輪に飾られた小指が跳ねる。

あやかしながらに山の神とも呼ばれる特異な存在、それが天狗だ。

そう簡単に死ぬような存在でもなく、ましてや海で死ぬのは違和感しかない。

天狗は海と相性が悪いので、よっぽどの理由がない限り行こうとはしないはず。