強さを得ても心を許してくれない。

私が瀬織のお姉ちゃんになれていないから。

何よりも歯がゆくて、自分が疎ましい。吐き気がすると濡れた手で喉をしめてみる。

(おねーちゃんになれない私が大嫌い)

瀬織のためなら、正義の味方にも悪役にもなる。

破門なんて怖くない。父に何を思われようとも平気だ。

巫女たちに後ろ指をさされても私がめげる理由にはならない。

私の心を傷つけることが出来るのも、甘い蜜で癒してくれるのも”瀬織”なだけ。

苦しさが限界にきて、喉から手をほどいた。

「菊里」
「静芽さん?」

頬を擦り、重たい顔をあげると紅玉の瞳と視線が交わる。

バルコニーに風が吹き、光の粒をまとう静芽に胸が締めつけられた。

鼻をすすって、口角をひきあげる。

「妹とすれ違った」
「?」

静芽が”妹”と呼ぶのは瀬織のことだ。

「食事の前に。髪が濡れていた。……食事中もずっと気を張っていた」

「そう……ですか。ははっ……さっき思いきりケンカしちゃったんです」

ケンカとは言っても、仲直りという概念はない。
常にケンカしているようなものだ。

静芽がわざわざ言うということは、見ていられないくらいに悲惨なのだろう。

笑って誤魔化すしか、今の私に出来る瀬織の守り方が思いつかなかった。

「妹が気づいているかはわからないが、帝都に来てからずっと変だ」

それは先ほど口にした”妙な気配”のことだろうか。

「菊里はあやかしの感知が苦手か?」

「苦手というか……気を張らないとわからなくて」

瀬織のことで頭がいっぱいだった、とは巫女として意識が欠けている。

だから瀬織は怒るのだと皮肉に笑った。

もしあやかしが人々を襲い、同じタイミングで瀬織に危険がおそえば、私は瀬織を選ぶ。

その考え方がそもそも巫女失格と呼ばれる理由でもあった。

「能無し巫女って、中身もダメな巫女ってことなんです。……せっかくあやかし退治が出来るようになったのに」