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研磨された石を積み重ねた造りの大浴場。

普段は巫女たちが代わるがわる室内風呂に浸かるか、泉での水浴びをするか。

あたたかい湯に浸かるのはちょっと特別な気分となる。

くわえて瀬織といっしょとなれば、もう気持ちの高揚はおさまらなかった。

「瀬織! とっても広いお風呂ね! うちにあるお風呂とはまた違うわ!」

「うるさい」

ぴしゃっと会話を切られるも、私はにやけ顔のまま湯に浸かる。

瀬織は裸になってもラインが美しく、女神と崇拝したいものだ。

もはやド変態の目をして瀬織を観察した。

(えへへ。ちょっとお得な気分。にしてもこのお湯、すごい匂いだなぁ)

薬湯と言っていただけに、独特な匂いが漂っている。

色も茶色みが強い緑だ。湯気でハッキリと見えないが、華奢な瀬織の身体にはいくつも傷跡があり、少しでも癒されてくれればいいと祈った。

(たくさん、あやかしと戦ってきたのよね。それこそ私の何倍、何十倍と)

瀬織が傷ついて帰ってくるたびに己の無力さを呪った。

どうして私には弓巫女としての適性がないの?

あやかし一匹かくりよへ送れない、役立たずの能無し巫女。

静芽に出会い、剣を握って少しはまともに戦えるようになった。

同時に自分はなぜ弓巫女ではないのか、疑問は濃くなるばかり。

弓巫女が減っているなかで、私だけが別世界。瀬織にだけ責任が集中して、追いつめられる。

父が命令だけする上辺の家長だとしても、文句ひとつ言わずに前を向き続ける。

反動で私に怒りが飛んできても何ら不思議はなかった。

それを受け止めることこそ私の役割、そばにいれるなら何でもよかった。