断ったものの、バラを送る場合は何本渡されていたのだろう。

差しだされたところで私の気持ちが遊磨に傾くわけでもないが、女の子として憧れるのは理解できる。

「贈ってほしい殿方がいらっしゃるので?」

「えっ!? え、あ、いや!」

何を言うんだと亜照奈を睨めば、余裕めいた笑みで一歩先を歩く。

「恋は素敵なもの。どうしたって女性が選ぶのは難しい。ですが夢を見るのは自由です」

亜照奈の言葉に急速に気持ちが冷めていく。

静芽といて浮き立つ気持ちでいたが、静芽が私をそういった対象として見ているかはわからない。

今回は遊磨個人としての申し出だったが、もし当主を通じての求婚であれば断ることはできなかっただろう。

自由な恋愛とは指をさされることも多く、親同士が決めた政略結婚が一般的だった。

(私、静芽さんとどうなりたいんだろう)

瀬織を守れる強いお姉ちゃんになりたい。

ワガママに付き合ってもらっている状態で、刀巫女としては師匠のような人。

かけがえのない存在だが、恋愛として意識すれば小恥ずかしい。

夜に浮かぶ月のような美しさの殿方と並ぶには、自信がないと胸に手をあてた。

すると小指にはまった珊瑚のピンキーリングが目に入る。

静芽はこれを”誠意”だと主張していたが、大切なものを私が持っていていいのか、いまだに迷いはあった。

(それにお父上の形見だと……)

気がかりはなかなか口に出来ず、私はモヤモヤを抱えてバラの花弁に触れた。

「そういえばずっと気になっていたことがあるんです」

亜照奈も同じようにバラに触れながら、私と瀬織を見比べる。

「お二人の眼帯はその……怪我をされているのでしょうか?」

双子が両方眼帯となれば目立つというもの。

女性にズバズバと聞いていいことなのか、繊細な問題ととらえられることが多い。

実際に質問を受けるのは珍しく、つい息を止めてしまった。