「ぜひ! 泊めていただけるならありがたいです!」

「はっ!? ちょっと、なに勝手に」

「まあ! せっかくですから楽しんでいただきたくて!」

「まっ……!」

「白峰家のご当主には電報を出しておきますわ。一晩だけになりますが、ゆっくりなさって」

「そりゃテンション上がるなあ! これこそ帝都に来た醍醐味ってやつでぃ!」

振り回される瀬織を気にしつつ、嬉々として話が決まっていくのは気分がいい。

遊磨も乗り気で、私たちは楽しいお泊りになりそうだとキャイキャイと花を咲かす。

あぜんとするのは瀬織と静芽だけ。

ここまで盛りあがった空気になると、瀬織も拒否はできなくなる。

こうして私たちと亜照奈は、宿泊という名の遊ぶ時間を獲得した。

頭が痛いと瀬織が椅子に腰かけ、ルンルンの亜照奈は部屋を用意すると言って退室した。

残された私たちは各々に興味関心に動きだす。

遊磨はなかなかお目にかかることの出来ない部屋の装飾に興奮しており、狩猟用のライフル銃のパーツを隅々まで観察していた。

私も普段とは違う楽しい時間を想像し、勢い余って苦いコーヒーを一気飲みする。

(ううう、苦い。でもにやける顔を誤魔化すには最高かも)

それくらい、私には非日常でウキウキせずにはいられないこと。

巫女としてあやかし退治に出るときくらいしか、瀬織と関わる機会がない。

家では瀬織が絶対に喋りたくないと、壁が厚くなるので近寄るのも困難だった。

観光がてらに遊ぶのははじめてで、巫女装束以外の瀬織を目に焼きつけようと凝視する。

今まで見たことがあるのは、せいぜい正月の振袖か夏場の浴衣くらい。

貴重な体験に胸がポカポカと温かくなった。

「菊里」

沈黙を貫いていた静芽が隣に立つ。

「どうしました、静芽さん?」

顔を隠す布をめくるも、相変わらずのしかめ面で目をあわせようとしない。

それどころかいつも以上に険しい表情だ。

気にかかって首を傾げると、私にしか聞こえない声で話しだす。

「気をつけろ」
「えっ?」
「嫌な気配がする。どこがとは断定出来ないが」

気配に敏感な静芽が言うとなれば相当なこと。

とっさに瀬織に目を向けて様子をうかがうが……。

「おまたせしましたぁ! ささ、部屋に案内いたしますね!」

静芽の言葉をさえぎる形で亜照奈が戻ってきて、続きを話すことは叶わなかった。