門番に声をかけ、応接室に通されて家長が来るまで茶を飲みながら待つ。

橙色を貴重としたガラス細工の照明。
複雑な幾学模様のペルシャ絨毯。
家屋を支えるこげ茶の柱。

白峰家と異なる西洋食の強い建物は落ちつかず、肩に力が入った。

「おまたせしました」

波打つ黒髪に、西洋人形のような顔立ちをした女性が応接室に入ってくる。

ゆったりとスカートを広げて挨拶をすると、私たちも慌ててお辞儀を真似た。

からくり人形並みのカクカクした動きでは、比べものにならないと恥を知る。

女性は可憐に微笑み、私たちに椅子へ腰かけるよううながす。

向かい側に女性が座ると、白い前掛けをした下仕えが流れるような動作でホットコーヒーをテーブルに置いていった。

瀬織はシャキッと背を伸ばし、弓巫女の顔をして女性に口を開く。

「突然の訪問にも関わらず、お時間をいただきましてありがとうございます」

「いいえ、こちらこそ。わたくし、国都 亜照奈(こくと あてな)と申します。白峰家の瀬織さんと菊里さん、沼津家の遊磨さん。あとは……」

壁に腕を組んで背を預けるのは、顔を隠した静芽だ。

どう見ても不審者で、亜照奈も反応に困って微笑み方に悩んでいた。

「護衛ですよ。女性だけの移動は何かと不便ですから」

「まぁ……。巫女様の護衛とは相当腕が立つ方なのでしょうね」

亜照奈はそれ以上は突っ込まず、決まりの良い笑みで瀬織に視線を戻す。

「せっかく来てくださったのにすみません。父は病に伏せっておりまして。今はわたくしが国都家の課長代理をしております」

災害時の受け入れ体制が万全な理由がわかった。

富裕層の声を重視し、外交に力を入れる人が突然貧しい人に助け舟を出す。

外の貧しい村の人を受け入れるのはなかなか骨が折れるもの。

亜照奈が指揮をとっているならば、父親と考えも異なり、難民支援に素早い対応が出来たのも納得だった。

「あやかしが被害を出すまでに対応出来ず申し訳ございませんでした」

「こればかりは神の采配。私どもに出来るのは困ったときは助けあうこと。それくらいですわ」

「……ありがとうございます」

実態はあやかしの悪さのためで、退治ができなかったのは巫女の落ち度。

神の采配だとしても、巫女の考え方では赤っ恥であった。

亜照奈が協力してくれたのは非常にありがたいこと。

気を張っていた瀬織はようやく安堵の息をついていた。

私も瀬織の緊張が解けたことにホッとし、コーヒーに口をつける。

「げほっ……」

はじめてのコーヒーに撃沈し、苦さに身もだえした。