どういう顔をするのが正解だろう?
こそばゆさに熱くなる頬を両手で包み隠した。
「菊里ちゃん、そういう髪型も似合ってるねぇ!」
遊磨がくるりと振り返り、私の頭を指さしてニカッと笑う。
私ははにかんで、編み込みで飾った髪に触れた。
(えへへ。瀬織の色違いのリボンなんだよね)
さすがに髪型を完全に真似するのは怒られそうなので、私は一本の三つ編みにした。
大きめのリボンは私が赤、瀬織は紫色を選んでいた。
「なんだかんださ、瀬織ちゃん浮かれてんなー」
「え?」
「ちゃんとフツーの女の子じゃん。菊里ちゃんと一緒だよ」
遊磨の視線を追えば、私にはいつも通りの瀬織がいる。
普通の女の子、と言われて私は瀬織の後ろ姿をぼんやりと眺めた。
巫女として意識が高く、自信に満ち溢れている。
月明かりを散りばめる水面の精霊みたいだ。
外様巫女たちも瀬織を尊敬しており、外見と実力が伴う姿は孤高だった。
普通の女の子と言われると、「フィルター越しにしか瀬織を見ていなかったのでは?」と引っかかる。
ずっと隣に立てるように強く、妹を守れる姉になりたいと願ってきた。
どこか浮世事のように考えていたかもしれない。
静芽と剣の特訓をするようになり、強さの輪郭は見えるようになってきた。
それでもまだ、瀬織のとなりに立つ立体的な自分が思い描けなかった。
***
「わぁ、立派なお屋敷ね……」
帝都の中心街から少し歩けば、ひときわ大きな洋館が視界に飛びこんでくる。
このあたりは富裕層が住まう土地で、和洋折衷な建物が軒並んでいた。
白峰家の屋敷は昔ながらの平屋で、敷地面積は道に迷うくらいに広い。
「うひょー、何度見てもすげぇわ」
遊磨は帝都に遊びに来ることも多いようで、わりと土地勘がある。
だが中心街から出ることはないようで、目的地だった国都家の屋敷に圧倒され、目を輝かせていた。
「あまり騒がないでちょうだい。白峰家を代表して来てるんだから」
「そんな浮かれた格好してそれ言う~?」
「うるさいわね! 巫女装束だと変に目立つからよ!」
瀬織にとって遊磨はとりつくろう必要のない相手のようだ。
棘混じりの態度で接しているのは喜ばしいこと。
私の気持ちをキレイな言い方にすれば祝福。
本音はポンポンと会話が飛び交う姿に、だいぶ嫉妬していた。
「姉貴は国都家の長と会ったことあるけど、いけ好かねー奴だってキレてたなぁ」
「何はともあれ、村人の避難先を用意してくれたのはありがたいわ」
気難しい顔をする瀬織の横顔に私は昨日の出来事を思いだす。
村は川の氾濫により家屋が浸水、作物もダメになった。
復興の目途も立たない。
なんとか村人は脱出できたが、帰る家をなくして先行きの不安に嘆いていた。
そこに助けの手を出したのが国都家だ。
家長は異国文化を積極的に取り入れる人らしいが、帝都の外側に関心は薄い。
富裕層第一主義。
難民といった貧しい人は切り捨てると耳にしていたが……。
避難先をいち早く用意してくれたのは意外だった。
こそばゆさに熱くなる頬を両手で包み隠した。
「菊里ちゃん、そういう髪型も似合ってるねぇ!」
遊磨がくるりと振り返り、私の頭を指さしてニカッと笑う。
私ははにかんで、編み込みで飾った髪に触れた。
(えへへ。瀬織の色違いのリボンなんだよね)
さすがに髪型を完全に真似するのは怒られそうなので、私は一本の三つ編みにした。
大きめのリボンは私が赤、瀬織は紫色を選んでいた。
「なんだかんださ、瀬織ちゃん浮かれてんなー」
「え?」
「ちゃんとフツーの女の子じゃん。菊里ちゃんと一緒だよ」
遊磨の視線を追えば、私にはいつも通りの瀬織がいる。
普通の女の子、と言われて私は瀬織の後ろ姿をぼんやりと眺めた。
巫女として意識が高く、自信に満ち溢れている。
月明かりを散りばめる水面の精霊みたいだ。
外様巫女たちも瀬織を尊敬しており、外見と実力が伴う姿は孤高だった。
普通の女の子と言われると、「フィルター越しにしか瀬織を見ていなかったのでは?」と引っかかる。
ずっと隣に立てるように強く、妹を守れる姉になりたいと願ってきた。
どこか浮世事のように考えていたかもしれない。
静芽と剣の特訓をするようになり、強さの輪郭は見えるようになってきた。
それでもまだ、瀬織のとなりに立つ立体的な自分が思い描けなかった。
***
「わぁ、立派なお屋敷ね……」
帝都の中心街から少し歩けば、ひときわ大きな洋館が視界に飛びこんでくる。
このあたりは富裕層が住まう土地で、和洋折衷な建物が軒並んでいた。
白峰家の屋敷は昔ながらの平屋で、敷地面積は道に迷うくらいに広い。
「うひょー、何度見てもすげぇわ」
遊磨は帝都に遊びに来ることも多いようで、わりと土地勘がある。
だが中心街から出ることはないようで、目的地だった国都家の屋敷に圧倒され、目を輝かせていた。
「あまり騒がないでちょうだい。白峰家を代表して来てるんだから」
「そんな浮かれた格好してそれ言う~?」
「うるさいわね! 巫女装束だと変に目立つからよ!」
瀬織にとって遊磨はとりつくろう必要のない相手のようだ。
棘混じりの態度で接しているのは喜ばしいこと。
私の気持ちをキレイな言い方にすれば祝福。
本音はポンポンと会話が飛び交う姿に、だいぶ嫉妬していた。
「姉貴は国都家の長と会ったことあるけど、いけ好かねー奴だってキレてたなぁ」
「何はともあれ、村人の避難先を用意してくれたのはありがたいわ」
気難しい顔をする瀬織の横顔に私は昨日の出来事を思いだす。
村は川の氾濫により家屋が浸水、作物もダメになった。
復興の目途も立たない。
なんとか村人は脱出できたが、帰る家をなくして先行きの不安に嘆いていた。
そこに助けの手を出したのが国都家だ。
家長は異国文化を積極的に取り入れる人らしいが、帝都の外側に関心は薄い。
富裕層第一主義。
難民といった貧しい人は切り捨てると耳にしていたが……。
避難先をいち早く用意してくれたのは意外だった。



