「そろそろ離れろ。気安く触るな」

静芽はずっと腕を組み、こちらを見ないようにしていたが、我慢の限界がきたようで遊磨の手を振り払う。

対して遊磨は余裕そうに鼻で笑い、胸を膨らませていた。

「お前さぁ、オレに突っかかってくるけど”何様”なわけ?」

「はっ?」

「相棒かもしれねぇけど、それ以上でも以下でもない。女々しい犬っころだろ?」

「ふざけんな、クソ猿」

「ケンカ売ってくんなら同じ土俵に立ってから言え」

ワナワナと震える静芽に、遊磨はしてやったりとほくそ笑む。

飛び跳ねるように数歩前へ出て、背中に担ぐ槍を握って華やかな見返りをしていた。

自信家で、槍巫女として戦うことに誇りを持っている。

まぶしい太陽。
瀬織に似ているようで、表情にかかる影は真逆だと魅入った。

(すごいなぁ。それによく見ている。ちょっと意外だけど。やさしさは人それぞれね)

遊磨の気持ちを受け入れることは出来ない。

いちおうお断りはしたが、どこまで割り切っているのか見えてこない。

槍を握る手をピースサインに変え、ニカッと笑いかけてくれた。

おそらくこれは静芽への挑発だ。

あえてそうするのは余裕なのか、面白がっているのか。

うれしい気持ち反面、罪悪感がつのった。

この人はたぶん、”そういう人”だ。

自己犠牲の多いタイプだが、それを上回る陽気さで悲しみも楽しみに変えていくのだろう。

(先に出会っていたら……)

瀬織によく似た人を異性として意識したかもしれない。

こういうのは誰かのイタズラと思える出会いの配分だ。

今の私は、胸の高鳴りを音にして違う方へ向いている。

憂いるだけだった私の手を、最初に引いてくれたのは静芽だった。

あの時以上の希望を越えるものはない。

瀬織を愛する心は、恋愛に当てはめる感情と違う。

相手へ向ける感情は、選べない。コントロールは不可能だった。